健康長寿ビジネスの最前線:不老不死は可能か?
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、2021年9月10日付の記事を紹介する。世界保健機関(WHO)では、新型コロナウィルス対策に取り組むと同時に、「エイジテック」を推奨し始めた。何かと言えば、各国政府に対して、健康医療への投資、社会インフラ、高齢者向けの住宅や介護サービスの拡充を求めるということである。なぜなら、長期的に見れば、人々の生命力や免疫力を高めるためにも、「エイジテック」と呼ばれる、「長寿と先端技術の融合」が最も効果的と判断されるからだ。
そんな中で、注目を集めているのが、ドミトリー・カミンスキー氏である。同氏は長寿ビジネスの旗振り役の起業家で、モルドバの出身。英国で投資ファンドを数多く起業しているが、その多くは長寿関連である。
彼に言わせると、「大きく延命できる技術は既にある」「寿命は最低でも50年増やす」「自分は軽く123歳までは行ける」「過去最高齢記録は122歳まで生きたフランス人女性ジャンヌ・カルマンだったが、その上を行った人には100万ドルをプレゼントする」。
ちなみに、カルマンさんは1997年に死亡したが、100歳まで自転車を乗り回し、110歳まで自活していた。また、117歳までタバコを愛し、チョコレートも大好きで、何と赤ワインは死ぬまで欠かさなかったという。
カミンスキー氏の目標は「180歳超え」。多くの投資ファンドを運営しているが、「5年以内により精密な未来人体延命ビジネスを立ち上げる」と豪語する。今手に入る技術で「123歳は確実だ」というのが、彼の口癖である。
彼はメディア向けに未来の延命ビジネスを積極的に語るのみならず、自ら「グローバル・ロンジェビティ・コンソーシアム」と銘打った組織を立ち上げ、長寿ビジネスへの投資を加速させている。このコンソーシアムの一環として「エイジング分析エージェンシー」なる会社も起業。この会社を通じて、シンガポール政府が進める長寿へのプロアクティブ政策を後押しまでしているから、筋金入りの延命ビジネスリーダーと言えるだろう。
というのも、2015年からシンガポールでは「40歳からのサクセスフル・エイジングのアクションプラン」を導入。具体的には「ナショナル・シルバー・アカデミー」や「シルバー・ジェネレーション・アンバサダー」制度を発足させ、在宅介護や家庭訪問でヘルスサービスの質的向上を加速させ始めたからである。
一方、「アマゾン」の創業社長の座を本年7月に降りたばかりだが、世界1の大富豪の座を維持しているジェフ・ベゾス氏も「ユニティ・バイオロジー」という企業の持つ老化細胞を除去する技術の実用化を支援してきた。それに加えて、最近、ベゾス氏は世界中の大富豪仲間に呼びかけて、「アルトス・ラボ」というベンチャー企業にも投資を行うようになった。これにはロシアの大富豪ユリ・ミルナー氏も加わっている。
昨年10月、パロアルトにあるミルナー氏の豪邸には世界からバイオテクノロジーの専門家が招かれた。感染症対策を徹底した上で、2日間の会議を通じて、いかに人を若返らせるか、議論が白熱したという。ミルナー氏は潤沢な個人資産を不老不死の研究に投入すると宣言。2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥教授もアルトスの科学諮問委員会の会長に就任した。要は、世界中の生命科学の頭脳を結集し、不老不死を実現しようというわけだ。
これまでグーグルの共同創設者であるラリー・ペイジ氏が中心となり、同じく延命長寿のための「カリコ・ラボ」を発足させてきたが、期待されたような成果が得られていない。そこで、ベゾス氏がミルナー氏と組んで新たな頭脳とグーグルを上回る資金で夢を実現しようと動き出したのである。
研究開発拠点は山中教授のいる日本をはじめ、世界数か所に設置されつつある。山中教授以外にもノーベル医学賞を受賞したジェニファー・ドウナ教授などが既に研究に携わっており、その成果が大いに期待される。最大のスポンサーであるベゾス氏曰く「国家、企業、個人を問わず、創造的な活動を維持、発展させるには自身の時計を逆転させ、日々、若返ることが望ましい」。自由で創造的なビジネスに挑むには若さは不可欠ということだ。
シティバンクの報告書によれば、「現在のアンチエイジングビジネスは世界全体で2000億ドル市場を形成している。ただ、これには医学療法分野は含まれていない。今後、医療ビジネスが広がれば、この市場は一気に拡大するだろう」。
また、アマゾンやグーグルとは別に、普段は眠っているサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を活性化させることで健康長寿を達成する研究にも拍車がかかっている。カロリー制限や運動で活性化することも可能であるが、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種である「レスベラトロール」でも活性化できるとの医学的研究成果も明らかになってきたことも影響している。病気予防と若返りが同時に可能になるというわけだ。
最近の注目株は「NAD(ミトコンドリアでのエネルギー補完因子、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」である。これはサーチュインの活性化にも効果抜群といわれている。アメリカで研究を続ける今井眞一郎博士が血液中のNADに老化防止効果を発見したのがきっかけとされる。
加えて、NADが減少することをNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が予防するとの研究も明らかになってきた。心臓血管の強化はもちろん、NMNには様々な延命上の有効性が今井博士によって立証されている。特に記憶を司る脳の機能が低下するのを押さえる効果がNMNにはあるとされるため、アルツハイマー病の予防にもなるとのこと。筋肉内の血管の強化も期待されるということで、NMNは健康長寿の切り札として世界的にも注目が集まっている。
いずれにしても、「生き残り(動物との戦い)や長生き(体に良い食物の確保)」は人類の歴史そのものである。これからも、続々と健康長寿を謳ったビジネスは登場してくるに違いない。言い換えれば、自己責任で何を選ぶか、そうした選択眼が問われる時代に突入していることは間違いない。そんな中、日本人研究者である山中教授や今井博士が世界から注目され、その研究成果に期待が寄せられていることは誇らしい限りである。
著者:浜田和幸
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