2024年12月23日( 月 )

【福島原発事故】徹底解説・ALPS処理水の海洋放出問題(後)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

 2021年10月2日、宮城県保険医協会で2時間の講演を行った。その際の資料を再編集して一部をここに提示する。

津島原発訴訟についての個人的見解

福島原発 イメージ 「津島原発訴訟」の判決が、7月30日に福島地裁郡山支部で言い渡された。判決は、国と東電の責任を認め、原告中の634人に総額約10億円を支払うよう命じた。他方、原状回復については「除染の方法が特定されていない」として退けた(詳細はコチラ)。

 私は、津島原発訴訟について、その経緯をテレビのニュースや新聞記事で見ていたが、「原状回復は認められないだろう」と感じていた。端的にいうと、原告側は「感情的」であり、「科学的な根拠」がまったくない。「これでは、裁判には勝てない」と私は思う。裁判の判決から推測すると、他の公害問題の訴訟や交通事故などの被害回復から、賠償金の支払い命令が出たものと考えられる。しかし、原状回復すなわち「原発事故の放射性物質汚染の除去」は、これまでないことであり、これを認めさせるには「裁判官を納得させるだけの資料が必要になる」と考えられる。なぜならば、裁判所はこれまでの判例を重んじるからである。然るに、原告は感情論だけで、現地調査から得られた証拠の提出がない。これでは、原状回復は認められないだろう。

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 原告らの故郷「津島」を原発事故以前の状態に戻したいのなら、放射線量率の綿密な現地調査を行い「これだけの汚染があるから元に戻せ」という科学的な根拠を示さなければ、話は進展しないだろう。原告が634人で、さらに彼らには、ある程度の保証金が支払われている。彼らが放射線測定器を購入し、津島の放射線量率を測定することは、さほど難しいことではない。1人で津島全部を測定するのはさすがに難しいが、634人で各人の調査範囲を決め調査することは、さほど難しいことではない。具体的な測定方法は、津島地区を地図上でメッシュに区分し、各人がそこで測定し、その調査結果を集積し地図に落とせは良いだけである。綿密に除染してほしいならば、メッシュを小さくし、調査密度を上げればよい。一例として私の調査(https://www.data-max.co.jp/article/39641)を提示する。また、放射線測定器の費用も裁判で被告に請求すれば良いだけである。要するに、故郷を元の状態に戻したいなら「労を惜しんではならない」ということである。以前「『黒い雨』判決と福島原発事故~あまりにも遅い救済(中)」でも書いたが、「国・東電が原発事故を起こしたのだから、国・東電が調査をして元に戻せ」という主張は、間違いである。加害者に調査をさせたら、自分たちに都合の良いデータしか出さない。酷ではあるが、被害者が被害状況を調査して、加害者に回復を求めるしかない。

 筆者の話になるが、2011年3月の福島原発事故当時、私は福島市渡利に居住していた。筆者は、周辺環境の変化や自身の体調の変化から、ただならぬ異変を直感した。極端にいうと「死」を覚悟したのである。当時私は、放射線についての知識はほとんどなかった。しかし、「この地獄のような状態の記録を後世に残さねばならない」と思い、行動を開始した。価格が高騰した放射線測定器の購入を図り、同時に福島県立医科大学附属学術情報センターに通い、放射線の専門書を約1カ月で20冊ほど読んだ。放射線測定器購入後は、福島市渡利を皮切りに周辺地域の放射線量の測定を開始した(http://www.wattandedison.com/Chiba2.html)。さらに、放射線測定器については、より高性能なものを求め、多数買い足した。山内一豊の妻の話ではないが、この調査に金を惜しんではならないと思った。

 最後に、自分の意思が固いのであれば、要求を通したいのならば、金と労を惜しんではならない。津島原発訴訟もまったく同じで、故郷を元の状態に戻したいのなら、自分たちの手で調査し、その汚染の証拠を被告に叩き付けなければならない。

(了)


千葉 茂樹 氏<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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