出会い、つながり、奥田流~北九州・希望のまちプロジェクト(5)
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認定NPO法人・抱樸は1988年、北九州越冬実行委員会として発足した。3つの使命――1人の路上死も出さない▽1人でも多く、1日でも早く、路上からの脱出を▽ホームレスを生まない社会を創造する――をはたすべく活動。理事長・奥田知志氏(58)と各界著名人との対談や炊き出しの様子をインターネット配信するなど広報活動にも力を入れ、ボランティア登録も約1,800人を数えるまでになった。しかし、その道のりは今も平たんではない。
路上死は今も
8月下旬の炊き出し。奥田氏はやや沈痛な面持ちでネット配信のカメラの前に立った。実はこの日の炊き出しは黙とうから始まっていた。前回の炊き出し後のパトロールで、車上で生活していたYさんが亡くなっているのが発見された。警察の検視によると死後3日、亡くなったのは8月4日と推定されるということだった。74歳だったという。
抱樸スタッフの男性が奥田氏の横で説明した。Yさんとは13年以上の付き合いがあったが、弁当配布などの支援は「まだ、いい」「自分でやれる」と拒否されていたという。しかし、世間話をするなど、つながりは保ち続けていた。いつかは支援を受けて路上から脱出してくれる。そんな期待を抱いて声かけを続けていたが、帰らぬ人となってしまった。男性スタッフは「私たちの支援はうまくいかないこともあるが、声をかけ続けると少しずつ変わってくれる。1人でも多く路上から脱出できるよう声をかけ続けたい」と話した。
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CSW勝部麗子さんと大阪府豊中市社会福祉協議会(前)抱樸の第一使命である「1人の路上死も出さない」さえ完璧とはいかない難しい現実がある。奥田氏は「この日の動画の視聴者数は跳ね上がりました。コロナ禍で大変な中、明日は我が身かという共感と、抱樸でも全部うまくいっているわけではなく苦しんでいるんだという共感があったと思います。しかし、実はこういう悲惨な現実はコロナ前にもあった。それが顕在化してきただけです」と語る。そのうえで「だから、あえてチャンスだと思いたい。コロナ前に戻るのではなく、違う生き方を探し、あるべき社会をつくらなければならない。そのことに皆が気づき始めているのではないか」と力を込めた。
見出した「光」
社会に変化が訪れる萌芽はある。昨年、抱樸がコロナ禍で苦しむ人たちへの支援を目的に実施したクラウドファンディングで、寄付総額は1億1,500万円を超え、寄付者は1万289人に上った。当初は1億円の目標に「無謀」との声もあった。しかし、2020年4月28日から7月27日まで3カ月を駆け抜けたクラウドファンディングは、最終日の前日に目標を達成した。1万人以上が参加したクラウドファンディングは珍しいといい、日本ファンドレイジング大賞を受賞した。
「平野啓一郎さんとか高橋源一郎さん、茂木健一郎さんなどすごいメンバーが協力してくれて、YouTubeで必死に協力を呼びかけました。以前、テレビでちょっとお会いしただけという人にも声をかけて協力を求めました。週2回配信して、さすがに疲れましたが、最後の2週間の寄付の伸びには目を見張りました」
集まった寄付金は、コロナ禍で住まいを失ったり転居せざるを得なくなった困窮者らに提供する“支援付き住宅”を全国10都市で確保する資金となった。抱樸を含む困窮者支援団体10法人が計172室を確保し、低賃料で困窮者にサブリースする。支援団体が大家から一括で借り上げる賃料とサブリース賃料との差額で支援活動費を担保し、就労など次のステップまで息長くサポートする。
「コロナ禍では人々が雇い止めや派遣切りにあったり、会社の寮から追い出されたり大変なことになっている。国の貸付制度などを使ってしのいだ人も今後10年は借金返済で大変です」。重い口調で今後の見通しを語る奥田氏だが、こう続けた。
「コロナで大変な人は多い。でも、その人たちが、もっと大変な人たちのためにと寄付をしてくれた。確保した172室は困窮者全体からすれば微々たるものかもしれないが、あのクラウドファンディングはちょっとした社会現象だった。最後のメッセージは困っている人へ向けて『1万人以上の人が、あなたに死んでほしくないと言っています。一緒に生きましょう』と訴えることができた。1万人以上の人たちとの出会いがあったのです」
コロナ禍の長いトンネルのなかで見出した光が、確かにある。
(つづく)
【山下 誠吾】
<プロフィール>
奥田 知志(おくだ・ともし)
1963年生まれ、滋賀県出身。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人抱樸理事長。関西学院大学神学部大学院修士課程修了、西南学院大学神学部専攻科卒業、九州大学大学院博士課程後期単位取得。(公財)共生地域創造財団、ホームレス支援全国ネットワーク、生活困窮者自立支援全国ネットワークなど代表。第1回(2016年度)賀川豊彦賞、第19回(2017年度)糸賀一雄記念賞受賞。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)、『いつか笑える日が来る』(同)、『ユダよ、帰れ』(新教出版社)など。関連記事
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