衰え続ける日本、根本的問題はどこにあるのか~政治と教育(4)
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失われた10年(1990年初頭から2000年初頭)は、もはや「失われた30年」になろうとしている。いざなみ景気など景気向上の時期がありながらも、かつての経済大国日本は過去の栄光にすがりつくしかなく、驚異的躍進を遂げた中国に圧倒的な差をつけられた。そして、リーマン・ショックや新型コロナウイルス蔓延を理由に、日本は根本的解決から目を反らす、いわば他責とし、みるみる衰退の一途をたどっている。
では、日本衰退の根幹はどこにあるのだろうか。OECD(経済協力開発機構)で日本人初の事務次長を務めたことのある谷口誠元国連大使・元岩手県立大学学長。日本有数の大手商社マンとして世界を駆けめぐり、現在、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、名古屋市立大学特任教授などを務める中川十郎氏。2人が行き着いた答えの1つは、「教育」の在り方と向き合い方であった。(聞き手・構成 麓由哉)
短期的ではなく長期的な目線を
谷口氏 今の日本は教育、政治、経済などすべてを短期的にしかモノが見えていません。それは100年、200年ではなく、1年後、3年後、長くて10年後しか見ていないのです。そうするとどうしても自己利益中心となってしまいます。
少し昔の話をすれば、かつて中国がまさにそうでした。毛沢東主席と周恩来首相が当時の田中角栄首相と大平正芳外務大臣に対峙したときのことです。もちろん中国のGDPは今よりはるかに小さかったのですが、歴史と文化に裏打ちされた大国としての意識や雅量が今よりはるかに大きく感じられました。物事を100年、200年のタイムスパンで考えることのできる大きな国であると思いました。そして、日本のリーダーも大国でなくてもたしかな教育を受け、すばらしい外交術をもっていました。
私は国連で、1974年に中国の鄧小平共産党副主席と水田三喜男自民党政調会長(当時)との会談に通訳として同席したことがあります。中国のリーダー(国家主席)が初めて国連の国際会議に出てきたときのことです。鄧小平副主席は中国の古典「韓非子」や有名な詩人である李白や杜甫などの言葉を引用して政治を語りました。一方、水田政調会長も文化・教養のレベルが高く、中国の古典にも精通しており、その議論の応酬は実に見事なものでした。
現在、中国の古典や漢詩を引用しながら、日中交渉を行うことのできる政治家や財界人は日本にはほとんどいません。昔の日本の政治家は日本のことはもちろん、中国の古典・文化にも精通しており、同じく中国の政治家も日本の古典・文化に精通していました。
また、目先のことに集中してしまうのは、文部科学省における各教育機関、大学への姿勢にも出ています。私が岩手県立大学の学長をしていたときの経験では、文科省の科学技術助成金は3年単位で成果を挙げるものに出し、より長期的な研究には助成金を出しませんでした。これでは長期的イノベーションを促進することはできません。
中川氏 私も短期的な目線になってしまっているということに同意見です。谷口大使がおっしゃる通り、短期的な見方は教育にも見られますが、貿易や経済面においてもそのまま反映されてしまっている状況です。長期的な経済、技術発展、対外外交を目指すからこそ、教育に対しても長期的な目標と目線が必要であると痛感することが多々あります。
21世紀の国家の競争力の雌雄を決する科学予算の推移をみても、日本が1983年から2019年に至る25年以上、年間5兆円以下であるのに対し、米国は15兆円内外で推移。一方、中国の科学予算は19年には25兆円を突破。IoT、AI、EV、バイオ、宇宙科学などの分野で総力を結集しています。
これらの世界の趨勢に対し、日本の文部科学省は大学の予算を年々削減、さらに大学授業料も値上げしています。大学授業料を低額、または無償化している先進各国に比べても、日本の対応は日本の将来の教育、技術革新、文化振興にとってもゆゆしき事態にあることを強く認識する必要があります。このように教育、科学、文化の分野でも、日本がいかに目先の短期的な見方で国を動かしてしまっているかが良くわかります。
日本はまず国の礎である教育問題を再考し、教育に全力を注ぐことこそ、緊急な課題であると痛感しています。
谷口氏 これからの日本は、経済外交を超えて、middle powerとなっても、文化外交を進め、文化国家として発展すべきだと思います。以上の政治、経済、文化などの総合的外交政策をアジアのみならず、広く発展途上の国々に遂行することができれば、日本は大国にならなくても世界の各国から親しまれ、世界の各国と共生し、発展できると確信しています。
一言でいえば、日本衰退の根本的な理由は「教育」にあると思いますが、それは内容だけではなく、国の教育への姿勢や向き合い方(財源的援助)、教育で生まれた人間性の世界に向けた活かし方(外交・政治)などを総じて指すものです。
長期的なビジョンをもちながら、日本国民性のレベルの高さ・文化を理解しながら、自分の利益ではなく、世界と向き合っていく人材として政治家や財界人などのリーダーを育んでいく必要があるのではないでしょうか。(了)
【麓 由哉】
<プロフィール>
谷口 誠(たにぐち・まこと)
1956年一橋大学経済学部修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、在ニューヨーク日本政府国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に「21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦」(早稲田大学出版部)など多数。
中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。
著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。関連記事
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