2024年12月23日( 月 )

日大の「闇の奥」〜大学を蝕む3つの病(1)

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ライター 黒川 晶

札束 イメージ    未来を担う若者に「広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」ための機関(学校教育法第83条)であるべき大学は、気がつけばいつの間にか一部の欲深いオトナたちの「草刈場」と化してしまっていた。

 公的事業選定への斡旋や多額の寄付金と引き換えに、特定の受験生に不正な加点を行っていた東京医科大学。理事長が地場不動産業者と結託して学校法人の資金21億円を着服し、業務上横領罪で5年6カ月の実刑判決を受けた大阪観光大学。学長による教職員への9件のパワハラや、特定の職員に対する約700万円もの不正な「報酬」が発覚した旭川医科大学……国公私立を問わず、近年明るみに出た大学の醜態は枚挙にいとまない。

 そしてこの秋、16学部87学科を擁し7万人の学生が在籍する我が国最大規模の私立大学、その名もまさに「日本大学」で、理事長とその側近らが逮捕されるという前代未聞の事態となった。「日大大規模背任事件」として連日メディアを賑わせているこの事件、各種報道を整理すると、そのあらましはこうである。

 日大は老朽化した附属病院(日本大学医学部附属板橋病院、東京都板橋区)の建替えを計画し、その設計・監理業者の選定を100%子会社の(株)日本大学事業部(同世田谷区)に業務委託。2020年2月に業者選定のコンペが実施されたが、その際、同社取締役を務める井ノ口忠男・日大理事は、都内の設計会社((株)佐藤総合計画)に見積り額を増額して参加させたうえ、選定委員会が出した評価点を改竄するなどして同設計会社に約24億円で受注させた。そして、日大から支払われた着手金約7億3,000万円のうち2億2,000万円を、大阪市の大手医療法人「錦秀会」の籔本雅巳理事長(当時)が株主を務めるペーパーカンパニーに、「コンサルタント料」の名目で送金させたのだ。そこから籔本氏側の口座に1億円が、別会社を経由して井ノ口氏個人に2,500万円が渡り、最後に籔本・井ノ口両氏から田中英寿・日大理事長に、「日ごろ世話になっている謝礼」として、合計6,000万円の現金が渡されたというのである。

 同大相撲部OBの田中理事長とアメフト部元主将の井ノ口理事とは、過去10年以上にわたり、家族ぐるみで親密な関係を結んできた(井ノ口氏は大学卒業後、大阪でスポーツ用品の販売などを行う会社を経営していたが、日大の広報関連の仕事を受注した実姉を通じて、田中理事長の優子夫人が経営する東京・阿佐ヶ谷のちゃんこ屋に出入りするようになったといわれる)。大相撲の朝青龍関のタニマチとして知られていた籔本氏を田中理事長に引き合わせたのも井ノ口理事。田中氏はその後、籔本氏を日大相撲部OBである遠藤関の後援会「藤の会」会長や国際相撲連盟副会長に取り立てるなど厚遇している。さらに、籔本氏は安倍晋三元首相のゴルフ仲間(両者は父親同士が山口県の仏教系宗教団体「新生佛教教団」を通じて交流があったらしい)であり、自民党の中山泰秀議員とも昵懇の仲。そして、このたび日大附属病院の基本設計を受注した設計会社も、自民党の故・野中広務元官房長官の元秘書が田中理事長に紹介したとされる。要は、事業費を水増し発注して大学に支払わせ、水増し分を「仲間うち」でこっそり山分けしていたというのが、この事件の骨子なのである。

 附属病院の建替え工事のみならず、医療機器調達についても同様のスキームで大学の資金を「ネコババ」していたことが発覚している。かくして井ノ口・籔本両氏は10月6日に背任容疑で、関与を否定し続けていた田中理事長は11月29日に所得税法違反の疑い(両者からの「謝礼」を含むとみられる現金約1億2,000万円が、家宅捜索で見つかったのだ)で、各々東京地検特捜部に逮捕された。

 学生が払う高額な授業料や国・自治体が補助金として投入する212億円の血税が、このようなかたちで食い物にされることは断じて許されるものではなく、大学ガバナンスのいっそうの強化が叫ばれているのは当然だ。しかし、今回の日大事件に象徴される大学の腐敗は、一部の不届き者の手による個別の事案というにとどまらず、むしろ日本の大学の<建てつけ>そのものが、そのような輩を生み出し育むような構造的問題をはらんでいることを浮き彫りにしている。

(つづく)

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