2024年11月22日( 金 )

本田宗一郎のDNAと決別~「エンジンをつくらないホンダ」はどこへ行くのか(前)

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 ホンダ(法人名:本田技研工業(株))は、創業者・本田宗一郎の「エンジン一筋」のDNA(遺伝子)と決別する。本田宗一郎のDNAを引き継ぎ、長年、ホンダが挑戦してきた世界最高峰の自動車レース、フォーミュラ・ワン(F1)から撤退。2021年が最後のレースとなった。撤退の理由は自動車用エンジンをつくらないからだ。

NHKが「ホンダF1最後の戦い」を放映

サーキット イメージ    2022年1月2日、NHKBS1スペシャルで『30年ぶりの栄冠!ホンダ最後の戦い』が放送された。

 「勝って世界一になる!それをモノづくりに活かす」。ホンダの創業者、本田宗一郎の言葉である。レースは会社のDNA(遺伝子)として、長年、ホンダは世界最高峰の自動車レース、F1に挑戦してきた。激しい競い合いのモータースポーツを通じて、最先端技術を開発。技術力を基に会社を大きく成長させ、若いエンジニアの育成を行ってきた。

 しかし、2021年限りでF1からの撤退を発表した。地球温暖化を防ぐ、脱炭素に向けて、資金、人材など会社の資源を集中させるためだ。

 番組では、レース映像と関係者の証言を積み重ね、ホンダF1最後の戦いを克明に伝えた。モータースポーツファンがこぞって録画した作品だ。

 社内で撤退に奮起したのは、F1マシンの心臓部、パワーユニットを開発してきた技術者たちであった。開発責任者の浅木泰昭は覚悟を決めた。「このままでは終われない!最後の年に、何が何でもチャンピオンを獲りたい」。

 1番になるために、ホンダの技術者たちは「もっとパワー!もっと速く!もっと信頼性を!」を合言葉に、全力で技術を磨き上げた。短期間に開発するために、3Dプリンターで部品をつくったり、ジェット機部門の技術を応用したり、全社体制の「オールホンダ」で挑んだ。

 そして、2021年シーズンが開幕。新しいパワーユニットを搭載したレッドブル・ホンダのF1マシンが躍動する。

F1活動を有終の美で締めくくる

 「ホンダ、30年ぶり王座奪還 劇的決着で有終の美-F1」

 時事通信はアブダビ発の記事(21年12月13日付)を全国の加盟社に配信した。

〈自動車のF1世界選手権シリーズの2021年最終戦、アブダビ・グランプリは12日、アブダビで決勝が行われ、エンジンを中心とするホンダ製のパワーユニットを搭載するレッドブル・ホンダのマシンに乗るマックス・フェルスタッペン(24)=オランダ=が今季10勝目を挙げて初の年間王者に輝き、F1活動を今期限りで終えるホンダが有終の美を飾った〉

 ホンダは1964年F1に初参戦した。撤退と再挑戦を繰り返し、15年からエンジンなどのパワーユニットを提供するかたちで4度目の参戦をはたした。パワーユニット供給元としての第4期F1活動を今季限りで終えたが、30年ぶりのタイトルで締めくくった。

 第4期F1活動の戦績は、レース参戦141回、優勝17回、表彰台49回だった。

ライバルに感謝を告げる新聞広告が大反響

 F1ラストゲームとなるアブダビ・グランプリ決勝を控えた21年12月12日の朝。ホンダは日本経済新聞に広告を掲載した。ピットで出走を待つマシンの姿とともに、こんな文章が添えられていた。

「ありがとうフェラーリ ありがとうロータス ありがとうブラバム
 ありがとうマクラーレン ありがとうウイリアムズ ありがとうルノー
 ありがとうメルセデス ありがとうトヨタ
 初めてF1に挑戦した1964年のあの日から今日までの、
すべてのライバルに感謝します」

 最終戦に挑む当日、歴戦のライバルに感謝を告げる新聞広告は、ファンの間に感動をもたらし、ホンダ史上最大級の反響があった。

F1撤退後の未来への新広告「挑戦って、いいもんだ」

 マックス・フェルスタッペンの大逆転でチャンピオンが決まるという、誰もが予想できなかった展開になった最終戦。ホンダは1991年以来となる30年ぶりのタイトルを手にした。

 F1最終戦を有終の美を飾ったホンダは大晦日の21年12月31日、新聞に新たな広告を掲載した。逆転勝利に抱き合って喜ぶフェルスタッペンの写真とともに添えられているメインコピーは『挑戦って、いいもんだ』。

 「負けるととにかく悔しくて、勝つととにかく嬉しくて、そんな全部に本気だった7年間。Hondaのエンジンを動かし続けたのは、世界中の人々の想いや声援だった。

 その感謝と思い出を胸に、これからもHondaは挑戦を続けていく。勝っても、負けても、どんな挑戦もすばらしい。そのことを、大きな声で、今ならいえる」

 ホンダはエンジンをつくらないため、F1から撤退した。本田宗一郎の「エンジン一筋」のDNAと決別して、未来へ「挑戦」していくことを告げる広告であった。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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