2024年11月21日( 木 )

西鉄高速バス運賃の値上げ(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

運輸評論家 堀内 重人 氏

 西日本鉄道(株)は1月20日、高速バスと路線バスの一部路線の運賃を3月に値上げすると発表した。値上げ幅は高速バスが平均で12%、路線バスが平均で13.5%となる。値上げの理由として、新型コロナウイルスの影響で利用者が減少していることを挙げている。

一般路線バスの値上げ

西鉄バス イメージ    一般の路線バスの運賃は、3月19日から10~150円値上げする。西鉄では2021年12月24日から12月30日まで、グループで運行する路線バスについて、小学生の運賃を1乗車につき一律50円にする需要喚起策を実施したところであった。

 21年12月頃は、新型コロナウイルスの感染が落ち着いていた時期であった。西鉄は「子どもたちにバスを使って出かける楽しさを知ってほしい」と、バスの需要喚起に期待していた。西鉄とすれば、子どものうちからバスに乗車する経験をさせることで、将来の顧客としたい考えがあった。

 西鉄グループでは、福岡・佐賀の両県で約170路線の路線バスを運行している。通常の子ども運賃は、たとえば天神とマリンワールド間が270円、博多と大宰府間が310円である。それを期間中は全路線で一律50円にしていた。降車時に乗務員に「小学生です」と申告し、整理券と現金50円を運賃箱に入れる仕組みであり、ICカードによる支払いには対応しなかったが、子どもだけでも利用できるようにしていた。

 今回の値上げは、最高速度60km/h制限の福岡都市高速道路を経由する天神~室住団地などの路線や、並行する一般道経由よりも安価になっている区間、JR九州に対抗し運賃を安くしている博多~甘木間など、11路線の区間が対象である。

 そのほか、都市高速経由と一般道経由の双方を運行している3路線については、都市高速経由の運行を中止する。

 バス路線ではないが、西鉄の子会社である筑豊電気鉄道も、4月1日から初乗り200円の運賃を210円とし、同時に定期券も値上げする。

値上げの効果と筆者の感想

▼おすすめ記事
肥薩線復旧に向けた現状と課題~肥薩線を高速新線として再生する(前)

 今回、片道運賃の値上げが実施されるのは、赤字額が大きい路線だという。西鉄は「新型コロナウイルス感染症の影響をはじめ、さまざまな環境の変化を受け、高速バス事業は非常に苦しい状況が続いている」とし、収支改善を図り路線を維持していくため、運賃の値上げに理解を求めている。

 これらの値上げで、年間1億6,000万円程度の収益改善を見込んでいる。西鉄の林田浩一社長は、「バス部門は運転手不足という問題もある。負担増は申し訳ないが、公共交通維持のために理解いただきたい」と話している。

 高速バスは西鉄に限らずバス事業者にとって利益率の高い事業であり、高速バス事業の利益で不採算である過疎地の生活路線の損失を内部補助することにより、ユニバーサルサービスを維持してきた。

 それがコロナ禍により、高速バス事業の経営が苦しくなれば、過疎地の生活路線を維持することが難しくなる。利用者からすれば「高速バスは三密になる」という思いもあるかもしれないが、高速バスの車内は換気が頻繁に実施され、5分もあれば車内の空気は入れ替わってしまう。それゆえ「三密」にはならない。

 以前ほどではないが、高速バス事業に次いで貸切バス事業も利益率が高かったが、コロナ禍では団体需要やバス旅行の需要が減少してしまい、バス事業者のなかには車庫で車両が寝ている状態のところが多い。また、貸切バス事業を専門としていた事業者のなかには、経営不振から倒産に追い込まれた事業者も多くある。

 高速バス事業が不振で、貸切バス事業も不振に陥れば、九州最大のバス事業者の1つでもある西鉄も値上げせざるを得なくなる。

 ただ西鉄が凄いと思う点は、値上げ率を1割程度に抑えつつ、ダイナミックプライシングも導入して、需要が多い時間帯や曜日は値上げ率を高くする代わりに、需要の少ない時間帯は反対に値下げを実施し、利用率の平準化を図ろうとする点である。

 生活路線についても、回数券を廃止したり、都市高速を経由する路線バスを廃止したりするなど、可能な限り値上げ率を抑えようと努力しているといえる。

 確かに運賃の値上げは利用者にとって負担が増大するため、できれば避けてほしいが、少子化の進展やバス運転手の確保が難しくなることが予想されるため、値上げは避けて通れないかもしれない。

 運輸業界はほかの業界と比較すると、労働時間が長い割には収入が低く、過労死する人も少なくない。そうなると、運転手などの待遇改善が必要となる。

 生活路線についても過疎化だけでなく、少子化の進展もあり、経営環境が厳しさを増している。各自治体もコロナ対策などの出費を強いられており、赤字路線の損失補てんに対し、十分な金額が補てんできるかどうかわからない不透明な状況にある。

 利用者も少しばかりは痛みをともなうようにしなければ、バス路線のユニバーサルサービスが維持できなくなる危険性がある。各自治体も欠損補助以外に、西鉄の経営体力を強化して本業で稼ぐ能力を向上させるためには、老朽化した車両の更新費の一部や、バス停の上屋やベンチの設置などに対する補助を充実させ、生活路線の利用者を増やす方向も模索する必要があるといえる。

(了)

(前)

関連キーワード

関連記事