熊本産アサリ、輸入牛の不当表示 繰り返される食品偽装(1)
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農水省も消費者も「対岸の火事」
熊本産アサリの産地偽装が大きな話題となっている。年間漁獲量20tあまりに対して、販売総量が2.000tを超えるというから、消費者としては開いた口が塞がらないというところだろう。かつての魚沼産コシヒカリ事件と似た構図だ。しかし、監督官庁の農水省などの反応をみると「対岸の火事」という感じがしないでもない。
同様の事例は企業規模や業種を問わず災害同様、忘れたころに必ずやってきている。カナダ産の馬肉や輸入牛を国産としたり、日付を改ざんしたり、企業規模や業種を問わずその種類は枚挙にいとまがない。問題は、なぜそんな事例がなくならないかということだ。
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小売こぼれ話(1)何をやるか、いかにやるか理由の1つに産地偽装や農薬の不正使用はそのほとんどに実害がないということが挙げられる。2011年に5人の死者を出したユッケ事件や2000年6月に発生した雪印乳業のように15,000人余りの被害者を出した事件なら、大きな社会問題になり、会社存亡の危機にもなりかねない。しかし、一時マスコミ各社が熱心に追いかけた残留薬物や添加物の違反事件などは、それを毎日大量に食べない限り、健康に影響はないということで、いつの間にか社会の話題から消えていった。自らに深刻な実害がおよぶ可能性がなければ多くの消費者にとってどちらかといえば、これもまた「対岸の火事」なのである。偽装被害は消費者にとって、業者のモラル違反への怒りと小さな経済的損失だ。
取り締まる側の公的機関も熊本産アサリや輸入牛の不当表示など、健康被害のない違反追及に対しては力が入らない。業者も違反に対して重罰を科さされることもない。人の噂も75日。大雑把に見るとその当たりに偽装が繰り返される背景があるといってもいいだろう。
もう1つは食品関連企業の低収益体質と国産品生産の環境劣化だ。「食い物商売なら食いっぱぐれはない」といわれたのは昔のことで、今やその環境は文字通りレッドオーシャンだ。この過当な競争環境にデフレも加わり偽装を生む環境が醸成される。
しかし、もっと厄介で深刻な問題がある。それは我が国の極端な自給率の低下だ。83年には17万トンを超えていたアサリの国内生産は07年には3,5万トン余り、20年になるとわずか4,300tである。今やもう純国産のアサリはないに等しい。
アサリだけでなく、わかめなどの海産物の偽装が相次ぐ背景にこの自給率の低下が見逃せない。この構造は海産物に限ったことではなく、畜、水産物全体にいえることで、30%台半ばまで低下した自給率に透けて見える日本の食糧戦略そのものの脆弱性かもしれない。
(つづく)
【神戸 彲】
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