【廃炉は遠き夢】トラブル続きの福島第一原発 11年目の惨状(5)
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福島自然環境研究室 千葉 茂樹
ロシアによるウクライナ原発への攻撃と日本の原発
2022年3月4日にロシア軍のザポリージャ原発への砲撃が報道され、戦慄が走った。皆さん、すでにおわかりかと思うが、原発の弱点をお話ししたい。これは、誰しも容易に想像できることであるが…。
原発の原理は、核燃料から発せられる膨大な熱を水に移し、水を沸騰させタービンを回して、電気にしている。核燃料は、常に熱を出すので、絶えず水で冷却しなければならない。この冷却ができなくなって、核燃料が溶け落ちたのが福島第一原発事故である。核燃料は放射性物質であり、大量の放射線を出す。人は放射線を大量に浴びれば死ぬし、それよりも少なければ病気になる。
原発がミサイルなどで攻撃された場合、一次的な問題と二次的な問題がある。一次的な問題は、原子炉が直接攻撃された場合である。この場合、核燃料が吹き飛んで、放射性物質が大気中に大量に放出される。飛び散る物質は、核燃料物質のウランやプルトニウムが主である。これらが放出されることで、原発周辺の放射線量が異常に高くなることが考えられ、当然、その後の対応もままならなくなる(二次的な問題と共通)。
二次的な問題は、原子炉が直接破壊されず、周辺設備が破壊された場合である。要するに、原子炉が冷却できなくなる場合で「冷却水の遮断」「電気の遮断」「運転員の殺害」などがあげられる。その後の挙動は、福島原発事故と同じで、メルトダウン・メルトスルーなどが起き、大量の放射性物質が放出される。また、原発は原子炉が1基だけでなく、多数設置されていることが多く、1基の原子炉がコントロール不能になれば、放射線量が異常に上昇し、人間は退避せざるを得なくなり、周りの原子炉も連鎖的にコントロール不能になる。
日本には原発が多数存在する。しかも原子炉は通常同じ敷地に多数ある。また、福井県では原子炉関連施設が密集している。
最近では、日本の周辺国でミサイル発射が連続し問題となっている。ミサイルは秒速2~6kmで飛行し、あっという間に飛来する。ロフテッド軌道(弾道ミサイルを通常より急角度で、高い高度に打ち上げる発射の仕方)では、ほとんど迎撃不可能である.これに対し、原発は基本的にミサイル攻撃を想定してつくっていない。もし、原発にミサイルが打ち込まれたら防ぎようがなく、福島原発事故よりひどい事態になることが予想される。
福島原発事故では、放射性物質の大半は西風に流されて太平洋に流れ出た。もし、西日本の原発で事故が起これば、その東側の地域が放射性物質で濃厚に汚染されることになり、とても住めたものではなくなる。このように、私たちの日常生活は、危うさのなかに存在していることを忘れてはならない。
如何に生き、如何に死ぬか。
話は、2011年3月の事故直後に戻る。私は福島市渡利に居住していたが、当時、この周辺は異常だった。詳しくはこちら。
日本地質学会 - 福島原発事故に伴う福島県の放射性物質汚染事故直後、土湯峠から見下ろした福島盆地は青白く見え、渡利からは鳥が消え、植物は黄変し、私の目や手は腫れあがった。衝撃的だったのは、1羽だけやってきた若い雀が、庭のビワの実を食べていたが、次の日、木の下で死んでいた。これらのことから、私は「将来、身体的に問題が生じる」と直感した。それと同時に怒りを覚え「どうせ死ぬなら、この悲惨な状況を後世に残さねばならない」と覚悟を決め、放射性物質の汚染調査に本腰を入れた。
私の調査論文・ネット配信ニュースなどはこちら。
千葉茂樹: 福島第一原発事故に伴う放射性物質による汚染に関する論文私の予見通り、5年後には事故直後に腫れあがった「左目に異変」が生じ、2021年秋には「ガン」が見つかった.今後も身体的に何かが起きるであろう。
原発事故後にどのような健康被害が出るのかは、実例が少なく、ある程度しか予見できない。なぜなら、こんな事故はめったに起きないし、起こしてはならないからである。従って、科学的知見に至るデータ量が絶対的に不足している。健康被害については、私のような身体変化を記録に残し、統計データとすることで、福島原発事故による健康被害の有効なデータとなり、最終的には科学的知見へと至る。被曝した方々には、酷ではあるが、可能であれば、居住環境の変化や、身体の変化を記録として残していただきたい。起きては困るが、次の原発事故の際に有益な資料となる。
最後に付け加えるが、「自分がもらった命をどう使うか」が問題である。私は、原発事故に遭遇し、生き方自体を変えざるを得なかった。すぐに死ぬ訳ではないが、私は残された日々を有意義に使おうと思っている。
(了)
<プロフィール>
千葉 茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。関連キーワード
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