ウクライナ報道に隠れ、ミャンマー国軍の弾圧が苛烈に(4)
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歯科医師
「福岡・ミャンマー友だちの会」代表
松本 敏秀 氏日本政府はロシアのウクライナ侵攻に対し、人道的支援などにアジアではいち早く乗り出した。一方で昨年の軍事クーデター以降内戦状態にあるミャンマーへの姿勢は対照的で、避難民支援は消極的だ。ミャンマーは元来親日的であったが、民主化を望む多数派の国民のあいだで日本政府への不信が広まってきている。ミャンマーで予防歯科などのボランティア活動に長年従事してきた松本敏秀氏(「福岡・ミャンマー友だちの会」代表)は、早く対処しなければ、対日イメージが悪化し、今後の両国の交流・協力関係に悪影響をおよぼしかねないと懸念する。
──ミャンマーの各地に行き、多様性を実感していますね。
松本 民族・宗教の多様性について、日本にいると学ぶ機会は少ないです。しかし、多数派に立脚し、最大公約数的に物事を考えていると、多くのことが漏れてしまいます。文化、歴史、宗教や言語の異なる少数の人たちの意見を聞いて、それに沿って物事を考えることは大切です。
各職種に向いた民族の特性があると思います。少数民族は概して生活が苦しい環境に置かれてきたため、忍耐強く、介護などに向いていると思います。たとえば、ミャンマー国内でも看護師、家政婦など面倒見のよさが求められる職業に従事しているのはカレン族が多いです。一方、ビルマ族は大多数を占めるためか、どちらかというと介護職などは敬遠する傾向が見られます。
これらはあくまで一般的な傾向であり、異なるケースもありますが、ミャンマーを相手にビジネスを行うのであれば、そうした点を理解しなければならないと私は思います。これからも、来日するミャンマー人は増えていくでしょう。ミャンマー人同士、日本人とミャンマー人の関係をマネージメントする際、企業側にミャンマーの多様性への理解が求められます。企業の人事担当者が各民族の特性を踏まえて、仕事をさせている企業はうまくいっています。
──九州に住むミャンマー人でも少数民族は多いのでしょうか。
松本 少数民族は多く、信仰している宗教はさまざまで、イスラム教徒やキリスト教徒もいます。つまり、博多ラーメンが食べられない人もいるということです。
私どもの「福岡・ミャンマー友だちの会」でも、料理関連のイベントを開催する際には、皆が食べられるようハラル料理も用意します。どんたくに参加する際も多様性への尊重を示すため、少数民族の衣装を着て参加してきました。ミャンマー人の生活習慣などに対する理解を増進するうえで、役に立てることがあれば会としても手助けしたいと思っています。
──国軍は、現在どのような状況をつくり出し、またどこまで弾圧を強めるのでしょうか。
松本 国軍のミンアウンフライン総司令官は国軍記念日の3月27日に、民主化勢力は根絶やしにすると宣言し、容赦しないという姿勢を示しています。今のウクライナと同じで、国軍が村を空爆して破壊しています。ウクライナは欧米からの支援を得て戦うことができていますが、ミャンマー市民には戦う術がありません。国内に国軍に対等に抵抗できる勢力がないうえ、内戦という性格上、外国が強くモノをいえないのをいいことに、国軍はやりたい放題です。
もはや法律など関係ない無政府状態で、市民が実際に反国軍行為を行ったわけでもないのに、逆らったというだけで捕まったり、殺されたりしています。先日聞いた話では、女子大生2人が反政府側に援助をしようと寄付したものの、それが国軍のオトリであり、捕まりました。寄付金はそれぞれ約3,000円でしかないのに、懲役7年を言い渡されました。
どれだけの市民が殺害されたのか、実態はわかりません。令状なしで逮捕され、裁判も開かれません。1万人以上が拘束されています。どれだけ殺されたか、そして遺体がどう扱われているかも不明です。ポル・ポト政権下のカンボジアで大量虐殺が行われたキリング・フィールド(刑場)と同じで、後になって被害が明らかにされる状況です。今後さらに懸念されるのは、とくに国境付近を中心に地雷があちこちに敷設され続けていることです。内戦が終わってからの将来の被害など、考慮されていないのです。
その地雷を敷設しているのは主に地方の軍隊ですが、それらはもともと孤児などを集め、暴力と恐怖で支配して、軍人として訓練しています。彼らは洗脳され、麻薬を与えられており、餌付けされた動物の如く命令を何でも聞きます。市民に対して同胞という概念さえ持っておらず、上官から命令されるがまま、殺人でも略奪でも行います。
ミャンマー軍社会では、そうした末端兵士の上に、中間層の軍幹部層がいて、その上は「貴族階級」である軍上級幹部層が存在します。軍上級幹部層は、自分たちの既得権益を守ることしか頭になく、それで選挙に不正があったなどといちゃもんを付け、国民の8割以上が支持した政権を奪い取ったのです。
私が歯磨き支援や手洗いの普及活動で訪問していた学校や、クーデター以前に訪問予定を立て、歯ブラシなど物資を送っていた学校でも破壊された所が多数あります。亡くなった子どもや家族と死別・離散し孤児になった子どももいるでしょう。現在その子たちがどうなっているか本当に気がかりですが、確認することさえもできません。テロリストの壊滅と言いながら、ミャンマー国軍にはもう敵味方の判断能力がなくなっています。誰かが止めない限り、軍はこのような残酷な弾圧を続けることになると思います。
(つづく)
【文・構成:茅野 雅弘】
<プロフィール>
松本敏秀(まつもと・としひで)
1983年九州大学歯学部卒、87年同大学院歯学研究科博士課程修了後、同大小児歯科に勤務。96年松本こども歯科クリニックに開院、2011年同クリニックを閉院し、ミャンマーなど東南アジアでのボランティア活動を開始。12年「福岡・ミャンマー友だちの会」を設立、代表に就任。この間、九大歯学部非常勤講師、臨床教授、卒後研修医指導医などを兼任。2019年西日本国際財団第20回アジア貢献賞受賞。関連記事
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