2024年11月22日( 金 )

JR九州の在来線特急料金値上げについて(前)

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運輸評論家 堀内 重人

コロナ禍による落ち込みを値上げでカバー

 JR九州は、2022年4月1日から、在来線の特急料金を値上げした。これにより自由席特急料金は、平均で4割程度の値上げとなった。従来は、自由席特急料金に一律530円を上乗せしていた指定席特急料金は、新たに「繁忙期料金」が新設され、繁忙期はさらに200円の値上げとなった。

 各鉄道事業者は、コロナ禍で鉄道の利用者が減少している。それはJR九州においても例外ではない。普通運賃を値上げすれば、通勤定期券・通学定期券も値上げとなり、利用者の負担が増大する。グリーン料金を値上げするという方法もあるが、利用者が減少するだけで、増収にはならないと判断、在来線特急料金の値上げと、座席指定料金の「繁忙期料金」を設定することにより落ち込んだ売上をカバーしたいと考えている。

 利用者は、普通運賃と特急料金の合計額を負担する。指定席料金に関しても、「繁忙期」は200円の値上げになることから、利用者が支払う総額は、区間によって1~2割程度の値上げとなる。実例を挙げると、繁忙期に指定席に乗車した場合の運賃を含めた総額は、博多~佐賀間は片道2,500円から2,860円に、博多~大分間は5,680円から6,670円に値上げされる。

中長距離で値上げ額が大きくなった今回の値上げ

 自由席特急料金は、表1で示すように、距離に応じて値上げされた。

表1 JR九州の在来線特急料金表
表1 JR九州の在来線特急料金表

 JR九州は、気軽に特急列車を利用してもらうため、民営化後はほかのJR各社に先駆けて25kmまでの特急料金を設定。また他社では実施していない、75kmまでの特急料金を設定した。新幹線などが開業したことで、昔のように長距離を運転するよりも、100~150km程度の距離を運転する特急が増えたこともあり、「75kmまで」という距離の特急料金を設定し、柔軟に対応しようとしている。

 JR九州の場合、25kmまでの自由席特急料金は310円で、コーヒー1杯程度の料金で、特急列車の自由席を利用できたが、4月からは500円に値上げされた。

 310円だった自由席特急料金が、500円に値上げされたら、利用しづらくなる。ただJR九州とすれば、25kmまでの割安な自由席特急料金を設定した場合、無人駅などから乗車する人から、乗車券や特急料金を徴収し損なわないように検札要員を増強する必要がある。

 500円に値上げしたら、利用者は気軽に利用できなくなる半面、JR九州とすれば、車内検札の要員を削減することが可能となり、ある面では一石二鳥の効果が期待できる。

 ただ筆者は、表1から100kmを超えると、料金の上がり方が急になることが気になった。「150kmまで」が、1,800円と550円も値上がりした。かつては博多~熊本間などが、「150kmまで」だったが、九州新幹線が開業した現在では、小倉~大分間、博多~佐世保間などが該当する。博多~佐世保間においては、高速バスとの熾烈な競争が繰り広げられている。

 次に「200kmまで」が2,200円と、790円も値上がりしている。博多~長崎間や博多~大分間が該当する。

 博多~長崎間は、22年9月23日に、西九州新幹線が開業することから、在来線特急に関しては、博多~肥前鹿島間の運転に短縮されるため、今後は博多~大分間になる。この区間も、高速バスと熾烈な競争が繰り広げられている区間であり、JR九州も振り子式車両を投入するなど、スピードアップや車両の改善を図ってきた。

JR九州は、急カーブを高速で通過が可能な振り子式車両を、博多~大分間などで投入している
JR九州は、急カーブを高速で通過が可能な振り子式車両を、
博多~大分間などで投入している

 「300kmまで」に関しては、2,400円と880円も値上がりした。博多~延岡間、小倉~宮崎間などが該当する。小倉~宮崎間に関しては、宮崎から博多まで高速バスで移動し、博多から新幹線を利用したり、宮崎から新八代まで高速バスを利用したり、新八代から新幹線を利用したりするのが一般的である。そのほうが、日豊本線の特急を大分で乗り継ぐよりも、所要時間が短くなるため、宮崎から日豊本線の特急を乗り継いで旅行する利用者は、少ないのが実状である。

 「301km以上」であれば、1,680円から2,600円に改定された。博多~宮崎間などが該当するが、現在は博多~宮崎間を直通する特急列車は皆無であり、すべて大分か別府で乗り継ぐことになる。理由は、博多~宮崎間の移動に関しては、高速バスや航空機、新幹線プラス高速バスなど、他の代替手段が発達しており、30年以上も昔のように、博多から日豊本線を経由して、宮崎へ向かう必要性が乏しくなったからである。

 それゆえ「301km以上」の在来線特急料金に関しては、JR九州においては有名無実化している。

(つづく)

(後)

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