日本経済を破壊した安倍・菅政治(後)
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政治経済学者 植草 一秀 氏
第2次安倍内閣の発足から、12月で10年の時間が経過する。「成長戦略」の言葉が繰り返されたが、日本経済は成長から完全に取り残された。その一方で進展したのが格差の拡大であり、国民の大半が下流へと押し流された。選挙のたびに各党は賃金の上昇を唱えるものの、実現のための具体的な裏付けがない。いまや日本は世界でも稀有な“貧困経済大国”に転じた。現状を打破するために必要なこと、そしてその可否を探る。
日本消滅の危機
25年前に比べて日本経済は縮小した。それにもかかわらず企業収益だけは拡大した。経済全体のパイが縮小するなかで資本の取り分だけが増大した。すなわち、労働の取り分は激減したのである。
20年の国税庁民間給与実態調査によれば、1年を通じて勤務した給与所得者の22%が年収200万円以下、55%が年収400万円以下。衆院議長になったのに「毎月もらう歳費は100万円しかない」と不満を吐露した“セクハラ”国会議員が話題になったが、月100万円以上を手にする富裕層は5%しかいない。
ひとり親世帯の48%が相対的貧困にあえいでいる(19年)。世帯収入中央値の半分以下が相対的貧困で年収127万円以下で暮らす世帯がひとり親世帯の約半分を占める。世界第3位の経済大国と言いながら、圧倒的多数の国民が下流に押し流されて疲弊している。若者が結婚、出産、育児などの将来設計を描くことさえ無理な状況が生み出されている。
技術革新が実現しない主な要因は日本の教育制度の貧困にある。日本の教育制度は国家に都合の良い、目上の者の命令に服従する国民と読み書きそろばんの事務的能力の養成だけを目指して構築されてきた。日本が組立加工産業で成長した時代にはこの教育の負の側面は顕在化しなかったが、ポスト工業化の局面に移行した途端、多様性、独創性を持つ人材がまったく供給されないことの弊害が露わになった。
若者が将来に夢を描けぬ日本で人口が増加するわけがない。日本経済の成長を展望できないのは現下の情勢を踏まえれば誰の目にも明らかになっている。
強欲資本主義 対 共生民主主義
事態を変えるには経済政策の根幹を全面的に変更するしかない。何よりも重要なことは、国家がすべての国民に保証する最低水準を大幅に引き上げること。筆者はかねてより、(1)政府保証による最低賃金全国一律1,500円の実現、(2)生活保障制度の確立、(3)消費税の減税・廃止の3つの最重要施策を提言している。政府の利権腐敗予算を廃止すれば、財政赤字を拡大せずにこれらの施策を実行することができる。
消費税減税の財源は大企業、富裕層個人に対する課税適正化によって調達すべきだ。現在の最低賃金は820円で、年間2,000時間労働でも年収は164万円。これが1,500円になれば年収は300万円。夫婦共稼ぎなら世帯収入は600万円になる。豊かな社会とは最低ラインで暮らす人が豊かさを享受できる社会のこと。過去10年間の新自由主義経済政策を一掃し、共生社会実現に政治と経済政策の舵を大転換すべきときがきている。
(了)
<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。▼おすすめ記事
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