JR九州「36ぷらす3」の展望(前)
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運輸評論家 堀内 重人
「36ぷらす3」は、JR九州のD&S(デザイン&ストーリー)列車の第12弾として、2020年10月16日にデビューした、JR九州が中心となって運行する特急列車である。D&Sトレインとしては、2017年3月登場の「かわせみ やませみ」以来3年半ぶりとなる。九州のエピソードをぎゅっと詰め込んで、毎日違うおもてなしにより、世界に「九州」をアピールしようとしている。車体色は、鉄道車両には珍しい黒色であり、メタリック塗装であるから、車体の光沢や艶があり、看板列車らしく鏡のような感じに仕上がっている。
「36ぷらす3」の概要
「36ぷらす3」は、2019年11月21日に概要が発表され、「九州のすべてが、ぎゅーっと詰まった“走る九州”といえる列車」がコンセプトである。
名前の由来は、「36ぷらす3」の「36」は、九州が世界で36番目に大きい島ということを示すとともに、5日間の行程で沿線の35のエピソードを紹介することで、利用者自身で“36番目のエピソード”を語って欲しいとの願いを込めたという。また「3」は乗客・地域住民・JR九州を表すとともに、「驚き、感動、幸せ」の意味を込め、36+3=39で「感謝=サンキュー(39)の輪」を広げたいとしている。
「ぷらす」が平仮名書きとなった理由は、「ななつ星in九州」の生みの親である、JR九州会長・唐池恒二氏のアイデアだという。
車両は、JR九州で在来線特急の主力として用いられてきた787系電車が種車であり、D&Sトレインでは初の電車となる。九州は、非電化区間が多いため、D&Sトレインを導入するとなれば、気動車が主流となるが、「36ぷらす3」の基本は、5日間掛けて九州7県を反時計回りにめぐるコース設定となっており、主要路線は電化されているため、高速運転が可能な電車で導入する方が望ましい。全ルートの走行距離は1,198kmで、左回りの一方向に円を描くように環状運転する。この点では世界最大であるという。
九州全体をめぐる列車として「ななつ星 in 九州」があるが、この列車は団体専用である上、個室寝台車で構成されているクルーズ・トレインである。
一方の「36ぷらす3」は、D&S列車として運行される。個室も含めた座席は、すべてグリーン席であり、合計105席が設定される。
「36ぷらす3」は、食事付きの旅行商品をメインとして販売されるが、5~6号車の座席は「みどりの窓口」などでも販売され、乗車のみの利用も可能である。
乗車するには、普通乗車券・特急券以外に、グリーン券が必要であるが、「36ぷらす3」専用のグリーン料金が設定されており、グリーン料金は150kmまで3,300円、200kmまで4,300円、201km以上は5,300円である。
JR九州の在来線特急のグリーン料金は、100kmまで1,050円、200kmまで1,600円、201km以上2,570円と比較して、非常に割高であるといえる。それゆえ「価格を下げたクルーズトレイン」といえなくもない。
「36プラス3」の1~3号車は個室車両であり、食事がセットになった旅行商品「ランチプラン」、月曜日ルートの長崎から博多は、「ディナープラン」としてのみ発売される。4人用個室は3名以上、6人用個室は4名以上での利用となり、2人用個室については追加料金を支払うことで、1名でも利用が可能である。
3号車の1部が、ビュッフェになっており、九州の地酒、軽食やスイーツが提供される。そして4号車は、定員外のフリースペースとなっており、「36ぷらす3」の乗客であれば、自由に使用することができる。
5~6号車は開放型の座席となっており、「みどりの窓口」でも販売され、食事が付かない乗車のみの利用も、可能となっている。
JR九州は、昼間は列車で楽しみ、夜は大いに地元で盛り上がってもらいたく、「36ぷらす3」は日中の時間帯のみの運行としている。夜行列車としての運行を予定しておらず、寝台などの宿泊設備は設けられていない。
運行の概要
基本は、毎週木曜日に博多駅を出発し、コース全体を5日に分けてルートが設定されている。
「36ぷらす3」は、「ななつ星in九州」のような敷居の高い列車とするのではなく、少しでも敷居を下げて、1日単位の利用も可能としている。それゆえ旅行代金は、昼食付きで1日1~2万円に設定している。そして乗降可能な駅は全体で11駅に限定され、この他に車外に出られる「特別停車駅」が10駅設定される。特別停車駅は、沿線の特産品の販売を行う駅や、風光明媚な駅、停車本数が極端に少ない秘境駅など、特徴的な駅が選ばれている。
木曜日ルートの博多から鹿児島中央駅間は、途中の八代から川内間は、第三セクターの肥薩おれんじ鉄道に乗り入れる。同鉄道は、貨物列車が運行されるため、電化設備は維持されているが、旅客列車はすべて気動車で運行される。これは交流電車の製造コストが高い上、ローカル列車は高速運転を実施する必要性もないためである。「36ぷらす3」を運転するにあたり、JR九州は電化設備を所有するJR貨物に、電化設備の使用料を支払っている。
同鉄道内では牛ノ浜駅に停車するが、同駅では乗降不可である。また八代・川内には停車しないため、同鉄道のみの利用はできない。
「36ぷらす3」の車内では、車窓に合わせて九州をより深く楽しむエピソードや、観光案内が実施される。
(つづく)
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