2024年12月23日( 月 )

ヤマエ久野 その戦略無き生存という手法から見えるもの(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

何をやるか・どうやるか(つづき)

物流戦略 イメージ    ヤマエ久野に求められるのは、祖業に加えての新たな柱の構築しかない。その柱の選択だが、有力企業には主に金融機関を介して、少なくないM&A物件が持ち込まれる。その取得による新分野への進出も、自己変革の種になるのである。しかし、その決定はたやすくはない。未知の分野に対しては、誰もがしり込みするのが普通だ。カリスマ的なリーダーが勇気をもって決めるしかない。あとは、その経営を誰に任せるかだ。

 ヤマエ久野トップの「戦略などない」という表現は極めて正しい。もっともらしい目標とその工程を計画しても、時代と人は時間とともに変化する。変化を時系列に正確に読み解いて変化の波を乗り切るのは、普通の人間には不可能だ。かつて巨艦主義を墨守し、航空優位を選択したアメリカに惨敗した旧軍を事後に論うのは誰でもできるが、航空戦略こそ次世代の戦いの肝だと強く主張した軍人がいたという話は、寡聞にして聞かない。

 かつて伸長著しかった日本型大型店には、多くのM&A物件が持ち込まれた。しかし、大多数は本家の力ずくの支配で、うまく行かなかった。だから、そこから派生して今も繁栄している企業は、コンビニのローソンやファミリーマート、良品計画とごく少数だ。大手小売が手がけたホームセンターもレストランもスーパーマーケットも、その大多数は姿を消した。生き残った企業は早めに本体の呪縛を外し、独自の視点で工夫と努力を重ねた企業だけである。

 新規事業で利益を手にできるかどうかは、経営能力に加えて運も左右する。いうまでもなく、運は人の力でコントロールできない。もちろん、幸運に恵まれれば、すべてうまくというものでもない。運とリーダーと現場に携わる人間の力がうまく組み合わさって、初めて成功が手にできる。

 ここで問題になるのが、なにをするか、如何にするかの2つの「するか」である。この2つには決定的な違いもあるが、共通する部分もある。

 どんな世界も同じだが、新規のものに取り組み、それをうまく運ぶには、ある能力がいる。それは尖った才能と行動力だ。しかし、この能力を持つ人材は、普通の角度から見ると、いわゆる「問題児」だ。より確実な結果を期待する経営者が、そんな人材を登用するのはまれなことである。そんな人材に目を付け、思い切って任せることができるかどうかも、新規事業の成否を左右する。

卸と小売

 もう1つのやり方は、長く付き合ってきた小売企業に進出するという選択だ。しかし、卸の小売への転換はたやすくない。一足先に小売が成熟したアメリカでは、大手卸が大手スーパーを買収して体質転換を図った。彼らは最近まで長期間、相当な経営努力を続けたが、結局はその社名を残せなかった。

 もちろん、アメリカから卸が完全に消えたかというと、そうでもない。それらの卸を統合し、今もホールセールとして存在するのは、オーガニックという新たな視点で卸を営むユナイテッド・ナチュラル・フーズだが、ホールフーズにオーガニック食品を供給することで有名なこの大手卸も、その粗利益率と経常利益率は我が国の卸と同程度だ。つまり、アメリカにも圧倒的な存在感のある卸はない、ということになる。

発想の転換

 既存型小売に進出が無理なら、既存の自社センターを利用したオンライン小売に変身するしかない。しかし、小売に手を出した途端、ライバルになった既存取引先は間違いなく取引を切る。ヤマエ久野も、そのあたりのところは十分認識しているはずだ。だからこそ、これまでは建築資材や住宅産業含む複数の異業種へのM&Aを実施してきたのである。

 しかし、それらはいずれも従来型の業種だ。年商3,000億超の食品卸の年間売上をカバーするには、心もとない。残された手段は、自前の配送力と物流倉庫を使った新タイプのリテール運営だ。しかし、その分野も既存小売を始め、メーカーが参入を始めている。

 昔から、改革は「尖がった人材」にしかできないといわれる。だが、出来上がった組織では、尖がった人材は嫌われる。彼らは、いわゆる問題児なのだ。たとえ特別な能力があっても、彼らには積極的に活躍の場は与えられない。まして、伝統型企業のトップにそんな人材はいない。

 とはいえ、消費市場の流通形態がオンラインにより激変の兆しが顕在化した現状を考えると、卸のトップにも、この尖り思考と行動が求められる時が来ているといえる。しかし、セクハラ・パワハラ追及花盛りの世相下では、現場での尖りの雰囲気は萎える。加えて、サラリーマン経営者はその任期を無難に切り抜けようとするもので、組織的な「抑制」意識が自然に働いてしまう。だが、抑制という手綱さばきによっては、独創性という馬は走らない。

 京セラ創業者の稲盛和夫も、ホンダ創業者の本田宗一郎も、尖った人材だった。だから、彼らは既存の組織を出て、あらたな世界をつくった。有能な人材は引き止めなければ、自然に流れ出てしまうのだ。

(つづく)

【神戸 彲】

(前)
(後)

関連キーワード

関連記事