2024年09月04日( 水 )

利にさとい学者政商・竹中平蔵氏が「嫌われる」ワケ(後)

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 政商とは、政府や政治家と特殊な関係をもって、利権を得ている商人(「広辞苑」)。表向きは学者を装いながら、政府の諮問会議に入り込み、「利権漁り」を生業とする人物を学者政商という。学者政商として大活躍をしていた竹中平蔵氏(慶應義塾大学名誉教授)が、いよいよ黄昏を迎えた。学者政商・竹中氏の手口を振り返ってみよう。

竹中氏は米国流「回転ドア」の日本版の実践者

回転ドア イメージ    米国に「回転ドア」と呼ばれるビジネス用語がある。民間と「政・財・学・官」の間を行ったり来たりして職を得る、米国のエリートの慣行を示す言葉だ。回転ドアのようにクルクル回るさまに由来する。1回転するごとに権力、財力、人脈などが蓄積されていく。何回転もして雪ダルマ式に富を築く人もいる。

 竹中平蔵氏は米国における「回転ドア」の日本版の忠実な実践者である。竹中氏はハーバート大客員准教授として米国に赴任したとき、公の役割を縮小して、すべてを市場経営に委ねる市場原理主義や、「小さな政府」を核とするレーガノミックスを支えた経済学者の薫陶を受けた。

 そして、米国社会の活力に寄与しているとされる「回転ドア」のノウハウを学んだ。
 竹中氏は学界(慶應大学、東洋大学)、政界(小泉純一郎政権、安倍晋三政権、菅義偉政権)、財界(パソナ、オリックス、SBIホールディングス、森ビル)を行き来する「回転ドア」の日本版の実践者となった。

 政策立案者が、関わった業界への「天下り」は問題にされるが、竹中氏には、そんなことはヘッチャラ。「回転ドア」を実行しているのである。学者政商と呼ばれるのは、「回転ドア」方式に由来している。

竹中氏が会長時代にパソナGの売上は7割増えた

 学者政商・竹中平蔵氏はパソナグループ(G)に何をもたらしたか。

 パソナは雇用の規制緩和や公共サービスの民間委託の流れを受けて事業を拡大してきた。竹中氏は政府の国家戦略特区諮問会議や産業競争力会議、未来投資会議などのメンバーとして規制見直しを進めた。

 パソナGの2022年5月期の連結決算は、売上高は前期比9%増の3,660億円、営業利益は11%増の220億円、純利益は27%増の86億円だった。いずれも過去最高だ。竹中氏がパソナGの会長だった13年間で、売上高は7割増えた。

 企業や自治体の間接業務を請け負うBPO(受託・請負)事業が、労働者派遣事業に次ぐ収益の柱に育った。パソナのドル箱となったBPOが、「政商」竹中氏がもたらした最大の功績といえる。

 小泉・竹中構造改革で進めた「三位一体」の改革で、地方自治体に対する地方交付税交付金や国庫補助金をカットし、財政危機に瀕した自治体が人件費削減に踏み込まざるを得ない状況に仕向け、職員の非正規化や公共部門の民営化を推進させるなかで、パソナが、その受け皿になった。

 パソナのBPO(委託・請負)事業の売上高は、20年5月期997億円、21年同期1,140億円、22年同期1,392億円と右肩上がりの成長だ。創業事業であるエキスパート(人材派遣)事業はほぼ横ばいで、22年同期の売上は1,520億円。早晩、BPOが人材派遣を抜くことは確実だ。

 利権漁りとして大ヒンシュクを買った竹中氏だが、「政商」としての仕事を完璧にこなしたといえる。パソナに破格のリターンをもたらした。

虎の威を借りる狐か?

 有名人の評価は、毀誉褒貶に相半ばするのが通常だが、竹中平蔵氏ほど嫌われっぱなしの人物も珍しい。竹中氏とは何者か? 
 諺にいう「虎の威を借る狐」が最もふさわしい。

 虎の威を利用することは狐にとって、最も有効な「成功法則」となる。しかし、状況は変わる。虎がいなくなって、その威を利用できなくなった場合は、自分の実力で勝負しなければならなくなる。すると、虎を利用して威張っていたときの反感が狐に集中する。狐は手痛い報復を受ける。

 竹中氏は、小泉純一郎、安倍晋三、菅義偉という時の権力者の威を借りて、存分に利権漁りができた。だが、岸田文雄首相に代替わりして、竹中氏に政治の場での出番がなくなった。岸田首相とは面識はあるものの、親しくはない。小泉政権以来、人間関係で結びついてきた安倍氏や菅義偉・前首相とは対照的だ。

 岸田氏は自民党総裁選に向け、記者会見で、「新しい日本型資本主義」を掲げた。そして、「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換することだ」と言い切った。「竹中路線からの転換」と言い換えることができる。

 岸田政権に居場所がなくなった竹中平蔵氏は「学者政商」稼業を店仕舞いせざるを得なくなったのである。

(了)

【森村 和男】

(中)

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