ノーベル平和賞の舞台裏~アザーニュース(後)
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DEVNET JAPAN 顧問
前駐ノルウェー日本国大使
田内 正宏Net I・B-Newsでは、ニュースサイト「OTHER NEWS」に掲載されたDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。DEVNET(本部:日本)はECOSOC(国連経済社会理事会)認証カテゴリー1に位置付けられている(一社)。「OTHER NEWS」(本部:イタリア)は世界の有識者約1万4,000名に英語など10言語でニュースを配信している。今回は11月11日掲載の記事を紹介する。
上記授賞理由を読むと、本年2月からのロシアのウクライナ侵攻に言及する部分は、ウクライナの市民自由センター(CCL)がロシアの戦争犯罪を特定し、文書化する努力に従事したとする部分のみです。そうすると、ベラルーシのアレシ・ビャリャツキ氏とロシアの人権団体メモリアルの授賞の理由に上げられたものは、ロシアのウクライナ侵攻の状況を反映したものなのでしょうか?
レイスアンデルセン委員長は受賞者の発表に引き続く記者との応答のなかで、「ウクライナ侵攻は核兵器使用の危機を高めている世界的な脅威だ。」と述べ、ロシアの核兵器使用に対する危機感を露わにした上、「我々は戦争のただなかにあり戦争を戦っている2つの権威主義国と1つの国家のことを話しています。我々は侵略と戦争以外の価値を促進するすべての国の市民社会の重要性を強調したい。」と述べて、今回の平和賞で問題にしているのは侵略戦争を引き起こしているロシアとそれを支援するベラルーシの2つの権威主義国家であることを明らかにしています。そのうえで、「権威主義国家が戦争を起こすのを防ぐためには、民主主義や人権の理念を社会に浸透させることが必要であり、今回の受賞決定者の活動こそがこうした理念の定着に貢献している。」と述べています。
また、記者から、「本日(10月7日)、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は70回目の誕生を迎えました。(ノーベル平和賞は)タイミングのいい誕生日プレゼントですか、それとも独裁者であり抑圧者であるリーダーに対する政治的な抗議なのでしょうか?」と聞かれたことに対し、レイスアンデルセン委員長は、「今年の平和賞は誕生日という意味でもその他の意味でもプーチン大統領に向けられたものではありません。しかし、プーチン大統領の政府とベラルーシの政府は人権活動家を抑圧する権威主義国家であり、プーチン大統領が注目を集めているのも両国で市民社会と人権活動家が抑圧されているからです。それがこの賞で我々が取り上げたかったことです。我々は平和に貢献した者に対しその貢献を讃えて賞を授与するのであり、誰かを非難して授与するのではありません。」と答えています。
確かに、ノーベル平和賞は、ノーベルの遺言に従って「国家間の友好関係、軍備の削減・廃止、および平和会議の開催・推進のために最大・最善の貢献をした人物・団体」に与えられるものであって、『誰かを非難して授与する』ものではありません。しかし、人権、民主主義、平和を擁護しようとした者を平和賞で讃えることは、人権を侵害し侵略戦争を仕掛ける権威主義国家と名指しされるロシアおよびその支援者であるベラルーシに対する強烈な非難となるものでしょう。
レイスアンデルセン委員長は、ノーベル賞授賞理由の最後に、「ベラルーシ、ロシア、ウクライナ3国の人権、民主主義、平和共存の擁護者を表彰したい」と結んでいます。近年世界の分極化が進んでおり、日本・欧米諸国に対するロシア・中国・北朝鮮・イランなどの二極の対立が鮮明になっていますが、ノーベル委員会が対置させている価値は、「権威主義国家の強権支配」とこれに対する「人権、民主主義、平和共存」であり、これを擁護する市民社会・人権活動家を讃えて平和賞を与えたものといえるでしょう。
(了)
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