2024年11月22日( 金 )

国民の命と尊厳を大切にしない日本政治の基本姿勢

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 NETIBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、利権につながる支出には無制限、無尽蔵に血税を注ぎ込み、主権者の生命や自由、幸福追求に対する権利を守る支出には片っ端から冷酷に切り込んでゆく日本政治の基本姿勢について言及した、7月10日付の記事を紹介する。


 すべての人の生命、自由、幸福追求に対する権利を最大に尊重することは国政上の責務である。日本国憲法第13条は、日本を戦争に巻き込むための条文ではない。

 岩手県の中学校で、いじめに苦しんでいた男子生徒が電車にひかれて死亡した。自殺と見られている。胸が張り裂けるような悲しいニュースである。子どもは苦しい心境を生活記録ノートに記していた。繰り返し繰り返しSOSを発していたにもかかわらず、誰も少年を救うことができなかった。このような現実が、日本で放置されている。
 ときの政権が全身全霊で力を注ぐべきことは、こうした痛ましい現実を引き起こさない社会を作ることなのではないか。

 日本に関係のない戦争に、日本が積極的に関わり、貴重な人命である自衛隊員を差し出すこと、他国を行って武器を使用し、殺戮を犯すことが、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を最大に尊重する」行動であるとは、まったく思えない。オリンピックを無理やり誘致して、法外な税金を投入して競技施設を建設することのどこに、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利を最大に尊重する」政治の姿があるのか。

 オリンピック誘致は金と票のためである。オリンピックの利権に群がる巨大シロアリ軍団が存在する。そして、オリンピックで人々の関心を政治からそらす。アスリートを非難するつもりは毛頭ないが、利権に群がる行動様式は吐き気を催すものである。

 2009年6月17日の党首討論を思い出す。評判の悪かった麻生太郎首相と、民主党代表の鳩山由紀夫氏による党首討論だった。麻生政権はサブプライム金融危機への対応を誤り、日本経済を奈落の底に陥れた。その大不況からの脱出を大義名分にして、14兆円の巨大補正予算を編成した。麻生太郎氏の愛読書である「マンガ」のために、「アニメの殿堂」を建設する費用などが予算に盛り込まれた。

 こうした施策に鳩山代表が異論を唱えた。

 「私がアニメの殿堂のことを申し上げたのは、河野太郎先生がそれは不要だということで申し上げた、自民党の中から不要だという話が出たということで、そのことを政府としてどう考えているのかということを申し上げた話であります。」
 「そこに百十七億円かける。・・・こういった箱物ですよ。三十億が土地だと承っていますし、そのうち七十億が箱物、そこで百億でしょう……」
 「この三月、四月、自殺をどのぐらいされたと思いますか。自殺の数が毎日百人です。日本です。そんな国、先進国でどこにもありません。特に、二十代、三十代の若い方々が自殺をされてしまっている。死因のトップですよ。亡くなった原因の、二十代は四九%が自殺ですよ。四九%、ほぼ半数がみずから命を絶たれてしまっている。三十代も三六%、三人に一人以上がみずから命を絶たれてしまっている。こんな国ないんです。先進国の中で、こんな若者の自殺が第一位なんていう国、ないんです。そういう人たちを救うことが政府の役割じゃないですか。私は、一人の命も粗末にしないというのは、まさにそういう意味で申し上げているのであります。」
 「そのことをもしおわかりになっているならば、なぜ生活保護を、あの母子家庭の母子加算、四月にカットしちゃったんですか。二百億ぐらいでしょう。そのぐらいのお金でできる話で、私はいろいろなところから聞きましたよ。」
 「小学校に入りたてのお嬢ちゃん、お母さんが生活保護、母子家庭、二万円を切られてしまった。そこで、もう私は高校に行けないのねと。その話を聞いたら涙が出ましたよ。高校に行けないのね、勉強したいのに。」
 「高校へ行っている男の子三人の兄弟のトップが高校一年生、彼も母子家庭。その方も修学旅行へ行きたい。でも、僕、修学旅行へ行かなくていいよとお母さんに言ったそうです。」
 「修学旅行へ行きたくても行けない、高校へ行きたくても行けない、こういう人たちがたくさん今いるんです。これが今、日本の現実なんです。」
 「みずから命を絶たれる方も毎日百人おられるんです。こういう方を救おうじゃないですか。居場所を見出せるような国にしようじゃないですか。」

 これこそ、主権者のための政治の姿勢ではないか。

 十分使用できる国立競技場を破壊して、なぜ2,520億円もの巨大な費用を投入して新しい国立競技場を作る必要があるのか。喜ぶのは、このお金を受け取る関係者だけだろう。

 鳩山由紀夫氏が党首討論で指摘した生活保護の母子加算は200億円程度であるという。利権につながる支出には無制限、無尽蔵に血税を注ぎ込み、主権者の生命、自由、及び幸福追求に対する権利を守る支出は、片端から冷酷に切り込んでゆく。これが今の日本政治の基本姿勢だ。
 この姿勢が、一人一人の命と尊厳を大切にしない風土を生み出す根本原因になっているのだ。

※続きは7月10日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第1189号「『今だけ金だけ自分だけ』が蔓延し『想像力』が消滅」で。


▼関連リンク

・植草一秀の『知られざる真実』

 

 

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