すらごと~「2つの銀行」(後)
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎
さらに、天神の福岡銀行はどうだろう。これもL字型の、執務空間としては使い勝手が悪いと聞いている。私は学生時代、アルバイトとして現場の黒川事務所へ出入りしていた。着工から竣工までつぶさに現場を見る機会があり、地下の木材を豊富に使ったホールは、現行法規では二度とつくれないホールであり、貴重な現代建築遺産でもある。
もし、この建物が福岡県立図書館として再利用されたらどうだろうか。天神の一等地に県民の“知の殿堂”ができることになる。当然、改修や耐震補強など、相当な費用がかかると思われるが、実にお粗末な東区の県立図書館の現状や、もし、新築を考えるならば、また数百億の単位の建築になることを考えれば、二度と再生できないホールや、行員の社食を生かして、図書館ができれば、少なくとの世界の建築界、あるいは文化人から喝采をあびる偉業となるだろう。
最悪のシナリオは、まだご存命であるが、磯崎氏がいつかの時点で亡くなられた後で、どちらかの銀行が解体されることである。どちらか一方が解体されればもう一方も同時に解体される可能性が高いと思っている。この2つの銀行は、現代建築の「双子」である。もし、2つの現代建築の傑作が福岡から消えるならば、二度と福岡で「建築文化」などといった議論はできなくなる。その資格が、この福岡からなくなるのだ。
もちろん、人や法人の所有物に、他人が口出しする権利はない。しかし、ヨーロッパの都市がなぜ、文化的な景観を保ち、歴史の香りを感じるかといえば、公共の空間に面している建物の一皮は、市民の共有物であるという考えがあるからだ。したがって、個人の敷地の建物は「オレの土地に何を建てようと、建ったものをどのように処理しようと人に言われる筋合いはない」ではすまされない。もし、この論理に立てば、私も一言言わせていただく権利があるかも知れない。すでに2つの銀行は確実に市民の記憶に刻まれ、都市景観の一部となっているからだ。
私にとっての「すらごと」がたとえ、0.01%でも可能性があるならば、寝言のようにこの「すらごと」をつぶやき続けたい。
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