2024年09月03日( 火 )

通信空間に埋没する個人と、組織管理(マネージメント)(3)

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通信空間と組織管理(マネージメント)の破綻

電子メール イメージ    先に見たように、Eメールで形成される連絡関係は大変複雑である。フィードバックを文章によってしか返すことができないEメールは、フィードバックの返信に大きなエネルギーを必要とする。また、複雑な連絡関係には、メールを受信した当人にしか分からない人間関係の力学がある。仕事の優先順位の設定は、自分だけに感じられる通信空間内の力学の影響を受ける。さらに、Eメールを連絡ツールとして業務を進める場合、メールの記録性や正確性をも考慮しながらメールの文章や資料を作成しなければならない。

 このような前提に立った上での効率的な仕事とは、通信空間内のメールと資料を自分の優先順位に従ってひたすら処理することである。それは組織として重視すべき業務の生産性とは異なる。

 このように通信空間では、機能的にも心理的にも組織から独立して、各自の通信空間の論理に従って仕事が進められる。その結果、各員が自身の持ち場の外堀を埋めることに一生懸命になって、組織が目指す肝心の城攻めには成果が上がらないという事態が生じるのである。

 通信空間内の情報の洪水とフィードバックの欠落は、組織管理(マネージメント)に重大な影響をおよぼす。管理者が組織管理に必要な情報の収集を、通信空間を中心に行う場合、十分なフィードバックの回収を期待することはできない。通信空間では複雑化した連絡関係に管理者も埋もれてしまっており、管理に関わる連絡関係をとくに重要なものとして特別化を望むことができない。

 そのなかで、組織管理に必要なフィードバックを期待しても、その返信に特別大きなエネルギーを費やさせることはできないのである。よって通信空間に移行した職場でこそ、組織管理のためには現実空間における対面のコミュニケーションによるフィードバックの補完が必要となる。

 フィードバックの回収が難しいにもかかわらず、組織管理の主軸を通信空間において行うことになったとしよう。その場合、組織管理はどうなっていくのか。結果として、フィードバックの回収を想定しない一方通行の組織管理が常態化していく。現実空間における対面を必要とするフィードバックの回収をコスト高と見なして切り捨てるのである。組織は一方通行型のトップダウンになる。

 むしろ、一方通行型のトップダウンによる組織運営こそ、通信空間に適応した効率的な組織運営と見なされるようになる。そのトップダウンは、通信空間内に存在する連絡関係の圧力と同調して、各員へ圧しかかる大きな圧力となる。結果として、通信空間内の一方通行の圧力が業務を進める動機となり、各員はその圧力に従って業務を行い、各員からのフィードバック回収に基づく組織管理が入る余地はなくなるのである。

【寺村 朋輝】

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