通信空間に埋没する個人と、組織管理(マネージメント)(4)
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組織から逃げ出す人々と、新しい集団の創造
職務空間が現実の空間から通信空間へ移行していることは、リモートワークで多くの人が再認識した。実際にリモートワークをしてみると、純化された仕事空間に理想的な満足を覚えた人もいれば、限られたコミュニケーションに頼りなさと閉塞感を感じた人もいただろう。
通信空間は現実の空間とは違い、空間を共有する人の波動が伝わらない空間である。空間に実装された方法によってのみしか何も伝えることができない空間である。そのような空間の性質を理解せず無闇に仕事にかかれば、膨大な情報と一方的な力で人間を圧し潰してしまう空間である。第1回の冒頭に紹介した、入社早々の私に対する上司の指導は、通信空間へと移行した職務空間における組織管理が、もはや建前としての「拘束時間」の管理のみになりつつある現実を教えていたのだと思う。
そのような通信空間を管理できない組織から、人々は逃げ出している。しかしその一方で、通信空間を武器として人々は個々人で仕事を始めている。それらの人にとって、通信空間は仕事の機能そのものであり、どこにでもつながって仕事ができる空間である。それは仕事をする身体そのものとしてインターネット上に存在するもう1人の自分である。
また、経営者側もそれに合わせて、各員の通信空間ごとに仕事を設定し、通信空間内の管理のみで各員の仕事を回収し、それを組み合わせて組織の業務が成立するように設計思想を変えている。各個人の通信空間に対するマネージメントが、生身の人間に対するマネージメントよりも、組織管理の主軸になろうとしている。
通信空間は、インターネット上のサービス提供者が、中間的な組織を超えて個々人と直接機能的に結びつき、世界的に大規模な直接の連絡関係をつくり出すことを可能にした。このことは、従来の大企業ばかりでなく、実体は中小事業者であっても、通信空間における機能提供を通して大きな影響力をもつ事業者になることを可能にした。彼らはサービスに機能的に依存する利用者に対して、通信空間内では個人の直接の雇用主である組織や身近な集団よりも優先的位置を占めることができる。一方通行型の連絡により、規約を変更して利用者との関係を有利にすることができる。サービスの利用形式を技術的にコントロールして利用者の行動様式もコントロールすることができる。それらの一方的な措置を、サービスの利便性とのトレードオフとして利用者が受け入れると想定できる範囲で、いつでも実行することができる。利用者に対して大きな力を持つ事業者なのである。
しかし、これらを含めた大きな事業者にとっての今後の課題は、拡大した影響力を効率的に運用し、それをより強力に機能化することである。そこでネックとなるのは、先にも述べたフィードバックの問題である。末端をより機能的に利用するためには、末端からのフィードバックを回収して分析し、より効果的な利用方法あるいは組織化の方法を検討する必要がある。
現在、AIの開発普及に対する期待が著しい。組織やシステムという観点からは、膨大なフィードバックを処理する頭脳としてのAIに大きな期待がかけられている。それは通信空間に対する管理の実現への期待であると同時に、一対多の関係における多の管理を新しい次元へ進めるための手段の創造であり、通信空間を通して生身の人間への管理にもつながるものとして、AIの登場が予想される。そして、AIを中心(ハブ)とした新しい集団の創造も予想される。
個々の人間が通信空間で大規模なサービスと結びつけられることによって、これまで人間がサービスの基本集団としてきた中小の組織・集団の存在が揺らいでいる。それは、人間が顔を見合わせられる距離にあり、お互いの手を取って協力し合う生身の人間同士によってかたちづくられる関係のことである。それは企業のみならず家族にも同じことがいえる。
中小の人間集団による協力関係は、もはや必要のない時代になりつつあるのだろうか。そうでないとすれば、もう一度その関係を新しく創造する必要がある。そのためには、現代人が、1人の人間のなかに、通信空間に依拠する部分と、現実の世界に依拠する部分を併せ持つ存在になったことを理解して、それぞれに必要なコミュニケーションの在り方をも理解し、自覚的に人間の協力関係を創造していかねばならない。その先に、新しい人間をつなぐ、新しい集団も創造されるだろう。
【寺村 朋輝】
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