2024年11月25日( 月 )

疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に(4)

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 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏から大島経営研究所所長・大島英雄氏の「疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に」が寄稿されたので以下に紹介する。

第7部:減少する原油・天然ガス生産量

 ロシア経済は油価依存型経済構造であり、油価長期低迷はプーチン大統領失脚に直結します。現在進行中のウクライナ侵略戦争用戦費調達のため、ロシア経済は疲弊しています。ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しており、本稿では定量的にこの点を数字で検証したいと思います。  

 ロシア連邦統計庁は2022年9月までの(コンデンセートを含む)原油・天然ガス月次生産量を発表しましたので、直近4年間の月次生産量を概観します。  

 ロシアの原油・天然ガス生産量は以下のグラフの通りにて、今年のウクライナ侵攻後に原油・天然ガス生産量が低下していることが一目瞭然となりましょう。付言すれば、2020年の原油・天然ガス生産量が低いのはコロナ禍による需要低迷が原因であり、2022年後半の原油・天然ガス生産量減少は、欧米メジャーや石油サービス企業撤退に起因します。

第8部:戦費拡大と石油・ガス産業の苦難/大増税法案制定

 露国庫財政は2022年以降大幅赤字予算になります。ゆえに、露政府は石油・ガス関連増税法案を議会に提出。下院で採択され、上院で承認された増税案は11月22日にプーチン大統領署名をもって発効しました。

 ご参考までに、2023年1月から3年間の期限立法で導入される増税案概要は以下の通りです。

●原油輸出関税を算出する係数を大幅に上げ、石油(原油+石油製品)輸出関税を増税する。
●P/Lガス輸出関税を現行30%から(ガス価格千立米あたり$300以上の場合)50%に引き上げる。  
●国内ガス価格を引き上げる。  
●LNGを生産・輸出する業者に対する企業法人税を34%に引き上げる
(従来20%)。
●ヤマルLNG用天然ガス鉱区地下資源採取税ゼロを廃止して、地下資源採取税を課税する。

 露ガスプロムの欧州向けパイプライン(P/L)天然ガス輸出はFOB輸出金額の30%が輸出関税ですが、2023年1月1日からはこの輸出関税が50%になります。欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池でした。

 しかし、2023年から欧州向けP/Lガス輸出は激減するでしょう。この場合、輸出関税を上げても輸出量が激減するので、露国庫税収は減少することが予見されます。すなわち、戦費の財源は今後ますます先細りになることが透けて見えてきます。

エピローグ/軍隊は胃袋で行進する 

 日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であった点です。  

 ロシアの≪祖国防衛戦争≫で負けたのは侵略軍です。しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの≪他国侵略戦争≫です。一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありません。最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。ゆえに、欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、プーチン大統領は高い代償を払うことになるでしょう。

 ロシア軍が今年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、12月5日で≪プーチンの戦争≫はすでに285日目に入りました。本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(現・キーウ)は制圧され、ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、ヤヌコビッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。  

 ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化はプーチン大統領にとり大きな誤算となりました。継戦能力の原動力は経済力と資金力です。ロシア経済はすでに弱体化しつつあり、戦費は早晩枯渇必至です。

 この戦争は長期化すると予測している人が多いのですが、来年中頃には停戦の姿が垣間見えてくるでしょう。ロシア敗戦で終戦となり、プーチン大統領失脚の可能性大と筆者は予測します。

 ナポレオン曰く、「軍隊は胃袋で行進する」。金の切れ目が縁(戦争)の切れ目になるでしょう。

(了)

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