タクシー老舗の事業転換 問われる変化対応力（中）

大稲グループ（稲員興産（株））

グループ支える海砂販売会社

　大稲自動車の清算により、今年5月時点でのグループ企業は前述の（株）福岡ハイヤーサービス含め実質5社となった。主要不動産の保有・賃貸業を営む稲員興産（株）。それらの管理・仲介などを行う大稲産業（株）。グループのコンサルタントやサービスの企画・開発を行う（株）マネジメント・アイ。海砂販売の（株）大稲物産である。稲員興産はヤマダ電機香椎店の駐車場用地などの不動産を有している。それでも最も手堅い経営を続けているのは大稲物産だろう。県の許可が必要な玄界灘の海砂を生コン業者などへの販売を行う。販売できるのは博多海砂販売（協）に加盟する12社のみで、建設需要がある限り継続した売上が見込める。採取コスト上昇にともなう仕入れ価格上昇や山砂販売業者との競合はあるが年間約5億円の売上高が急減することは考えにくい。

　グループ全社で代表を務めており稲員英一郎氏が方針決定や商品開発などで強いリーダーシップを発揮していることがうかがわれる。ただ不動産管理の大稲産業の代表に英一郎氏が就いたのは今年3月。辞任した弟・英作氏に代わって就任している。6社中5社で2人代表制を採用し福岡ハイヤーサービス、福岡リムジンサービス、大稲物産で英一郎氏、英作氏兄弟によるタンデム体制となっている。そのうち大稲物産は対外的には英作氏を代表として打ち出している。英作氏の役割の重要度がうかがわれるが、英一郎氏への献身性の高さがたびたび指摘される。英一郎氏が体調を壊した時期には情報共有やマネジメントなどでパイプ役をはたした。

高付加価値型新会社設立の目的は

　大稲自動車の事業を引き継いだ福岡ハイヤーサービスだが、保有する68台の車両のうち稼働しているのは49台だ。大稲自動車には180名の従業員が在籍したこともあるが、福岡ハイヤーサービスで「流し」営業に従事しているのは約20名だ。コロナ禍で多くのドライバーがタクシー業界を離れた。先述の敷地縮小後の新社屋建設などから少数精鋭によるハイヤーサービス特化を図ると見られる。福岡ハイヤーサービスでは採用専用サイトを設置して「クラスA」サービスの後継サービス「コンシェルジュドライバー」の募集を継続している。コロナ対策規制緩和などでインバウンド需要が回復するなか、種をまいてきたVIPや海外客、富裕層の需要を本格的に取りにきている。

　こうしたなかで、今年11月には（株）福岡リムジンサービスという会社を新設している。本社は中央区赤坂の「101大稲ビル」に設置し福岡ハイヤーサービス（東区二又瀬新町）と分けて置いた。また、他のグループ企業が本社を置く「107大稲ビル」とも異なる立地に置いている。事業内容の詳細を明らかにしていないが、「コンシェルジュドライバー」だけでなく観光・企画担当者の募集も行っている。サービス開始予定は23年4月でサービス起点を中央区大名に置くことを匂わせている。ウィズコロナ経済でのハイクラスサービス需要増に照準を合わせ福岡ハイヤーサービスのソフト、ハード面を強化してきたなかで、あえて新会社・別拠点を立ち上げた格好だ。

　福岡リムジンサービスのサービス開始時期とサービス拠点を見直すと、天神ビッグバンが視野に入ってくる。そのシンボルといえるホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」が来春、中央区大名で開業する。大稲グループのマネジメント・アイは大名に有料駐車場「大稲大名パーキング」（駐車台数88台）を有する。ザ・リッツ・カールトンまでの距離は約500mで同所を拠点化できれば数分でホテルに到着することができる。また福岡リムジンサービスが本社を置いた「101大稲ビル」からも歩いて数分の距離にある。ハイヤー事業で富裕な客層を有する最高峰ホテルとの契約を実現すれば、その波及効果は計り知れない。「大稲大名パーキング」は今夏から新サービスを開始している。東大発ベンチャーと共同で3人乗り電動トゥクトゥクのレンタルを始めたのだ。また縦1,9m、横3,2mのデジタル看板も設置して広告営業も開始している。いずれも観光客を対象としたもので、これがザ・リッツ・カールトンとの契約を意識したものだとすれば絶対にとりにいかなければならない案件だ。

（つづく）

【鹿島　譲二】

＜COMPANY INFORMATION＞
稲員興産（株）
代　表：稲員　英一郎ほか1名
所在地：福岡市中央区大手門1-9-11
設　立：1964年3月
資本金：1,000万円
売上高：（21/12）2億243万円