2024年12月23日( 月 )

トヨタ自動車のEV敗退「トヨタ崩壊の足音」(後)

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 トヨタ自動車は1月26日、豊田章男社長(66)が4月1日付で会長に就き、佐藤恒治執行役員(53)を社長に昇格させる人事を発表した。トヨタの社長交代は約14年ぶり。急速に進む電動化の流れのなかで、佐藤氏は遅れが指摘される電気自動車(EV)戦略の立て直しなど、山積する課題に向き合うことになる。

『トヨトミの逆襲』のモデルは豊田章男社長その人

 『トヨトミの野望』の主人公はサラリーマン社長の武田剛平(モデルは奥田碩氏)だったが、続編となる『トヨトミの逆襲』の主人公は、なんと創業家の御曹司・豊臣統一、すなわち豊田章男社長その人である。しかも話は2016年からはじまるから、まさに「今」を描いている。

 物語は、その統一社長と、取り巻きの曲者ぞろいの役員たちの人間模様が綾になって進んでいく。「大老」とよばれる70歳を過ぎた副社長・林公平は、この小説の核をなす人物であり、老獪なやり方でトヨトミ自動車での「陰の社長」として権力を振るい出す。

 小説に出てくる主要人物については、「あの人がモデルか」と、トヨタ自動車や一次、二次、三次と裾野の広い下請企業の関係者なら、ピンとくる。

 林公平のモデルは、小林耕士番頭。「番頭」という役職があるのは大企業ではトヨタだけだ。社長を補佐する職と位置付けられている。章男社長の意向を忖度して執行役員人事を仕切ったことから「陰の社長」と呼ばれた所以だろう。

 小林番頭は22年6月の定時株主総会後に代表取締役を退任した。代表取締役番頭という奇妙奇天烈な役職はなくなり、ただの「番頭」になった。

CASEという大波に揺れる自動車業界

トヨタ車 イメージ    物語の舞台は、現実と同じ。CASEと呼ばれる、100年に1度の大波に揺れる自動車業界だ。

 CASEとは、C=コネクティッド(IoT、クルマがネットでつがる)、A=AIによる自動運転、S=カーシェアリング、E=EV電気自動車のことだ。

 主役は自動車企業ではなく、ITの巨大企業たちだ。彼らが産業界の垣根を越えて、既存の自動車業界に殴り込んできた。

 CASEの世界で競争相手になるのは、GAFAのような巨大なIT企業だ。GAFAとは、グーグル、アップル、フェイスブック(21年10月メタに社名変更)、アマゾン・ドット・コムの頭文字をつないだ造語。

 この波についていけない自動車メーカーに、未来はない。

 CASEシフトが進めば進むほど、複雑なガソリンエンジン車の開発・製造のために積み上げてきた技術と系列サプライヤーの多くは不要になり、電池やモーターといったデバイスの開発が必要になる。

 自動車メーカーでも、資金量ではGAFAに太刀打ちできない。トヨタのような完成車メーカー以上に苦境にあるのが、系列の部品メーカーだ。CASEの大波に飲み込まれて、取引が先細る不安を拭えない。

 こうした環境のなかで、日本を代表する自動車メーカー「トヨトミ自動車」の創業家出身の「豊臣統一」社長は何を考え、どう判断を下しているのか。電気自動車開発で遅れを取った焦燥、取り巻きたちの追従、幹部社員の背信など、リアルな描写。作中で描かれているストーリーは、現在と近未来の自動車業界を知る上で、多くの示唆に富んでいる。

 トヨタ自動車が「世界一」から転落し、崩壊に向かう予言の書といわれるゆえんだ。

章男社長は「裸の王様」か?

 「完全自動運転車の実用化に時間がかかっているように、電気自動車(EV)もメディアが言っているほどすぐには主流にはならないだろう」。トヨタ自動車の豊田章男社長は22年9月末、ラスベガスで開いたディーラー大会で、全米のディーラーの代表者にこう語りかけたと報じられた。

 この発言が物議を醸した。EVシフトに真正面から盾突いたことから米メディアは「あまりにタイミングが悪い」と批判した。米国では、「脱ガソリン車」を推進する政策が協力に進められつつあるからだ。

 あまりにノー天気な発言に、情報誌『選択』(22年11月号)は『トヨタ章男が「反EV」でご乱心、世界を敵に回す異様な言動』と報じた。

 トヨタ自動車のEV開発が一向に進まない。初の量産EVは発売一カ月でリコールを出し、原因究明まで三カ月以上を要した。加えて豊田章男社長は米国で「反EV」を堂々と宣言した上、相変わらずガソリン車によるモータースポーツに力を注ぐ。世界の潮流に逆行する「裸の王様」への社内忖度が蔓延し、EVに力を割けないジレンマに陥っている。

 太鼓もちのご追従に慣れているから、不用意な発言であることに気付かない。まさに「裸の王様」の状態だ。

 トヨタ自動車は、EV戦争に勝てるだろうか。周回遅れのトヨタが、今から駆け出して、米テスラや中国のBYDに追いつき、追い越すことができるか。トヨタが負ければ、「日本沈没」だ。

(了)

【森村 和男】

(前)

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