2024年11月05日( 火 )

晋三死すともアベ呪縛政治は続く 政権交代が日本再生の鍵(前)

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 村上誠一郎元大臣の国賊発言、「財政、金融、外交をボロボロにし、官僚機構まで壊して、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に選挙まで手伝わせた。私から言わせれば国賊だ」はまさに「国賊」と呼ぶに値するアベ政治の問題点を列挙したものだ。しかし安倍忖度政権とも呼ばれる主体性なき岸田文雄首相は国葬で元首相を神格化し、悪しきアベ政治をそのまま継承しようとしている。死してもなお現政権を縛り続けているようにも見える安倍晋三元首相。だからこそ、日本政治の再生には政権交代が不可欠なのだ(2022年末執筆。日付はとくに断りがない場合22年時点でのもの)。

2022参院選 安倍元首相の死

安倍元首相

    参院選投開票2日前の2022年7月8日午前、ネットニュースサイト「NetIB-NEWS」に安倍元首相批判を盛り込んだ原稿を送った直後に、銃撃事件のニュースが流れ始めた。「掲載延期か」との思いがかけ巡ったが、トップの判断で同日午後3時40分に公開された。タイトルは「『アベノミクス』のメリットばかり強調の安倍元首相」で、銃撃事件3日前に安倍元首相を直撃、円安誘導で物価高を招いていることについて問い質した内容をまとめたものだった。

 仙台(宮城選挙区)での街宣で安倍元首相が、「円安はデメリットもあるが、チャンスなのです。何といっても観光。100円が135円になれば、(外国人観光客にとっては)日本に行けば今までよりも35%引きになるわけです。世界中から観光客が来ることになっていく」と訴えたので、街宣後に直撃。「外国人観光客は35%引きでも日本人は35%物価高」「日本の通貨を安くして自慢しているのは安倍さんくらいではないか。世界の笑い者ではないか」と声をかけたが、一言も答えてもらえなかった。「円安誘導は観光関連業者にはチャンス到来でも一般庶民にはピンチ襲来でしかない現実をどう受け止めるのか」という質問への回答を聞けないまま、安倍元首相は亡くなってしまった。

 直撃取材を繰り返したのは、首相辞任後も党内最大派閥の清和会(安倍派)代表として岸田政権に大きな影響力を有していたからだ。行き過ぎた円安を招いたアベノミクスを岸田政権は見直そうとせず、「岸田インフレ」(立憲民主党の小西洋之参院議員)と命名された物価高を招いていた。「物価高の諸悪の根源はアベノミクス」という因果関係が見て取れたからこそ、私は岸田首相だけでなく安倍元首相を取材対象にしていたのだ。

 しかし物価高騰が参院選最大の争点に急浮上し、まさに「安倍忖度の岸田インフレ」への審判が下されようとした直前、銃撃事件が起きた。事件直後から、「バイ マイ アベノミクス(アベノミクスは買い)」と海外で訴える安倍元首相の演説映像などを紹介する“追悼翼賛報道”が溢れ返るようになり、「非業の死を遂げた元首相」というイメージが広まって弔い合戦のような雰囲気さえ漂った結果、野党の追い上げムードは吹き飛んだ。国民生活に密接な関係のある一大争点がかすんでしまったのだ。

 参院選の結果は天王山の1人区で自民党は28勝4敗、改選過半数(124議席中63議席)を占める大勝となる一方、立憲民主党は改選前の23議席から6議席減の17議席と惨敗したのだった。

 岸田首相は参院選勝利の直後に安倍元首相の国葬を決めた。地元山口でも県民葬が行われることにもなった。約10年間にわたるアベノミクス(異次元金融緩和が柱)によって、対ドル円相場は民主党政権時代の70円台~80円台から140円台~150円台となり、自国通貨の価値は半減。円安で輸入物価高を招き、国民生活を困窮させてもいた。その原因をつくった張本人を追悼するために税金投入をするのは、茶番としか言いようがない。村上元大臣の国賊発言は庶民感情を代弁する正論だった。

安倍元首相による教団票差配の実態

 岸田首相の“安倍忖度政権”ぶりは、旧統一教会問題でも見て取れた。「関係を断つ」と宣言したのに、教団票差配をしていた元締め的存在である安倍元首相への“本丸調査”を野党が求めても、岸田首相は頑なに拒否したのだ。

 そもそも今回の銃撃事件は、アベ友優遇政治が生んだ悲劇と言っても過言ではない。自民党への選挙支援(信者の無償労働提供)で世話になっている“アベ友教団”を優遇、高額献金を野放しにする貸し借り関係が成り立っていたように見えるからだ。「安倍元首相は韓国教団への国富流出の片棒を担いでいたのではないか」という疑いはいまだに消え去っていない。

 真相解明の手がかりになる重要発言もあった。HTB(北海道テレビ)は7月28日、「前参院議長の告白 完全版 伊達忠一氏 安倍元総理に旧統一教会票を依頼」と題する番組を放送した。そのなかで「安倍元首相が旧統一教会票を差配していた」という衝撃的な伊達氏の証言を紹介。2016年の参院選の際、伊達氏は、初出馬する宮島喜文に旧統一教会票を回すように安倍に依頼、宮島は全国比例で当選したが、今回の参院選では安倍元首相に、「今回は井上(義行)を支援する」と言われ、宮島氏が出馬を断念したという経緯を伊達氏は語ったのだ。

 その宮島氏と入れ替わるように今回の参院選全国比例で当選した井上義行参院議員は第1次安倍政権時代の秘書官で、実際に旧統一教会の支援を受けていた。

 7月6日、さいたま市文化センターは異様な熱気に包まれていた。3階席まである大ホールはほぼ満席状態で、大ホールの入口の立て看板には、「神日本第一地区 責任者出発式」と集会名が記されていたが、ステージに座っていたのは井上候補だった。そして幹部らしき人物が、「井上先生はもうすでに食口(信徒)になりました」と紹介すると、参加者から大きな拍手と歓声が沸き起こる。続いて幹部が「私は大好きになりました」「戦いをするならば、必ず勝たないといけない」「勝つことは善であり、負けることは悪でございます」などと訴えるごとに、会場内は拍手と歓声で盛り上がった。

 岸田首相は“本丸調査”を拒む理由について、「本人が亡くなられている。反論も抗弁もできない」と国会で答弁したが、本人が亡くなっても教団票の差配を受けて当選した井上参院議員や出馬を断念した宮島・前参院議員、その経緯を地元テレビ局に語った伊達元議長らに聞き取りをすることは可能だった。職務怠慢としか思えない消極的対応を続けたのも、死後も安倍元首相への忖度を続ける岸田首相の限界としか言いようがない。

(つづく)

【ジャーナリスト/横田 一】

(後)

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