2024年11月29日( 金 )

「大きすぎて潰せない」問題はもはや解決不可能なのか

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 アメリカとヨーロッパで発生した金融危機に対して、当局が早急な対応に乗り出している。アメリカで経営破綻した2行、シリコンバレー銀行(預金総額:1,750億ドル)、シグネチャー銀行(同885億ドル)は預金が全額保護された上で、他行が買収することになった。クレディ・スイスはUBSが買収することになった。このような当局の対応に対して、再度、「大きすぎて潰せない」という言葉が頭をもたげている。

ニューヨーク・ウォール街 イメージ    当局主導による早急な救済決定には賛否両論ある。リーマン・ショックの再現を防いだとして評価する向きがある一方、金融安定化名目による政府支援は金融機関にとってもはや織り込み済みであり、すでに金融機関のリスク管理のタガが外れてしまっているのではないかと批判の声も高い。

 2008年の金融危機で大手金融機関の危機的状況が明らかになった時、大手の倒産が連鎖的に他の金融機関にも及び金融システム全体が崩壊することが懸念された。政府は公的資金を用いて大手金融機関の救済に乗り出したが、これを「大きすぎて潰せない(Too big to fail)(TBTF)」問題と呼ぶ。その後、TBTF問題への対応として、金融規制の政策枠組みに関する国際的な合意がなされた。

 今回破綻したシリコンバレー銀行は、預貸率(預金残高に対する貸出残高の割合)が43%と低かった。つまり、金余りの状態で、長期国債や住宅ローン担保証券といった有価証券での運用割合が高かった。そのため、急激な金利上昇のあおりを食って、膨大な含み損を抱えていた。預貸率の低下と運用方法としての国債購入への傾倒は、日本の金融機関も同じであり、対岸の火事ではない。

 もうひとつ、「大きすぎて潰せない」の影響が表れている。シリコンバレー銀行の破綻後1週間で、アメリカの中小規模の銀行から流出した預金が過去最大に上ることが、アメリカ連邦準備理事会(FRB)の資料で明らかになった。流出したのはおよそ1,190億ドルで、中小規模銀行の総預金額の2%程度にあたる。その一方で、大手銀行には670億ドルが流れ込んだとみられる。

 金融機関に限らず企業の「大きすぎて潰せない」問題は、解決どころかむしろ08年の金融危機以降ますます肥大化し、もはやコントロールできないところまで来ていることを、当局は今回の救済を通じて、事実上認めたことになるのではないだろうか。

【寺村 朋輝】

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