2024年12月27日( 金 )

USJをV字回復させた立役者 森岡氏がハウステンボス再建へ(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

ハウステンボス イメージ

 大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の業績を立て直したことで知られる森岡毅氏が率いるマーケティング企業が、長崎県佐世保市の大型リゾート施設「ハウステンボス」の運営を支援することになった。「日本を代表するマーケター」として知られる森岡氏の足跡を振り返ってみよう。

ハウステンボスを森岡氏が支援

 旅行大手(株)エイチ・アイ・エス(以下、HIS)は、大型リゾート施設ハウステンボス(株)(以下、HTB)(長崎県佐世保市)の全株式を香港の投資会社PAGに666億円で売却した。

 HISの澤田秀雄会長(71)はHTB売却後、初めてメディアの取材に応じた。地元紙『西日本新聞』(2022年10月6日付)は、澤田氏との単独インタビューを掲載。澤田氏はHTBの売却について「僕は反対したんだけど…」と激白した。

 〈理由を問うと言葉を継いだ。「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の計画もあるし、(HTBの)株式上場の予定もあるし、これからも伸ばせる可能性があると思っていたから」〉

 と悔しさを吐露している。

 HTBは運営の主体がHISなどからPAGに切り替わった。森岡氏の辣腕ぶりを知るPAGがHTBの運営支援を依頼した。

 森岡氏が率いるマーケティング企業(株)刀(大阪市)は昨年10月5日までに、HTBとの間でブランディングや運営を行うことで正式に契約したと発表した。

 森岡氏は、「ハウステンボスは貴重な地域経済の核として、日本の観光産業にとってその再成長の意義は非常に大きく、長崎を起点として九州全域、ひいては日本の経済活性化に貢献できると考えています。地方創生の大義にてらし、新ハウステンボスの価値向上に邁進していきます」とコメントしている。

マーケターのプロ、P&Gマフィア

 森岡毅氏(50)は、1972年10月福岡県北九州市で生まれ、兵庫県伊丹市で育つ。地元の高校を経て、96年神戸大学経営学部卒。同年、米日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)日本法人に入社した。

 P&Gは「パンテーン」「パンパース」など世界的ブランドをもつ。各ブランドの売上高に責任をもつマーケティング部門は会社の要。日本法人では新卒採用は10人前後と狭き門だ。

 「世界に通用するプロを育てるために人材への投資は惜しまない」という社の方針から、社外に転身後も活躍する人材が多い。日本マクドナルド(株)を復活に導いた足立光氏や、USJを再建した森岡氏ら著名なマーケターを輩出し、通称「P&Gマフィア」と呼ばれる。
 森岡氏は日本法人のヘアケア商品企画で腕を鳴らし、32歳でブランドマネージャーとして米国本社に登用された。マーケター(マーケティング戦略立案者)と呼ばれるマーケティングのプロ。USJへの入社の経緯はこうだ。

大株主のGSとCEOが森岡氏に白羽の矢を立てる

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、米テーマパーク、ユニバーサル・スタジオの米国外への初進出として、2001年3月に開業した。運営会社(株)ユー・エス・ジェイは大阪市が25%を出資する第三セクター。社長は4代続けて大阪市OBが務める天下り先だった。来場者は初年度に1,100万人あったものの、すぐに失速。

 05年に米投資銀行ゴールドマン・サックス(GS)が出資。親離れが再建の起点となった。07年3月に東証マザーズに上場したが、直後のリーマン・ショックの世界的不況で、来場者は700万人に激減。09年、GSが主導してMBO(経営者が参加する買収)を実施、USJの上場を廃止した。

 大株主のGSとCEOのグレン・ガンペルはUSJの再生には集客策が不可欠と考えた。そこでマーケティングのプロである森岡氏に白羽の矢を立てた。森岡氏は10年6月、テーマパークの運営会社ユー・エス・ジェイにCMO(最高マーケティング責任者)として招かれた。

大戦略「3段ロケット構想」

 森岡氏の手腕はいかんなく発揮された。入社早々に、USJを飛躍的に成長させる戦略をつくった。目先の小功は追わない。ビジネスを最大化する太い「勝ち筋」のみを考え、USJをアジア最大のエンタメ会社にする道筋を見つけた。収益構造を革新させる3つの大きな階段を登る、「3段ロケット構想」と名付けた。

 1段目のロケットは、今ある資金をかき集め、弱点だったファミリー集客を強みにひっくり返すこと。具体的には、新ファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」の建設だ。

 それで稼げるようになると甚大なキャッシュを燃料に2段目のロケットを点火し、なんとしてでも「関西依存の集客構造から脱却」しようとした。「ハリー・ポッター」エリア建設で、全国・海外から集客する。

 それによってさらに激増するキャッシュで最後の3段目のロケットを点火し、成長するアジアの構造に乗せて第2、第3のテーマパークを多拠点で展開する。沖縄での第2パークを計画していた。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

関連記事