2024年11月03日( 日 )

百貨店解体新書(1)~西武池袋本店が百貨店の旗を降ろす日!(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 風雲急を告げる。セブン&アイ・ホールディングス(HD)の百貨店子会社そごう・西武(東京)の売却問題は大混迷に陥った。

 セブン&アイは3月30日、そごう・西武の売却を再延期すると発表した。これまで「3月中」としてきた譲渡時期については、手続きが完了するまで明らかにしない。

 セブン&アイはそごう・西武を米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却すると決定。当初、譲渡予定日は今年2月1日だったが、3月中に先送り。さらに、期限未定のまま延期した。売却先の米ファンドが西武池袋本店の低層階に家電量販店大手ヨドバシカメラを出店させる計画をめぐり、地元や地権者が反発。調整がつかなくなったからだ。

 話をそごう・西武の売却問題に戻す。

 セブン&アイは「物言う株主」の圧力を受け、百貨店のそごう・西武を売却することにした。セブン&アイは2006年ミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を株式交換と現金により2,000億円超で子会社化した。当時の社長は、”中興の祖”といえる鈴木敏文氏。だが、鈴木氏は創業家である伊藤家と対立し失脚。鈴木氏に「ダメ出し」されていた井阪氏が社長に就いた。

 井阪氏は鈴木氏に義理立てするつもりはさらさらない。バリューアクトの要求を口実に百貨店の売却を決断した。イトーヨーカ堂は、創業者の故・伊藤雅俊氏が起こした祖業だ。これに手をつけるわけにはいない。そごう・西武は売却し、イトーヨーカ堂は残す。これで、バリューアクトの圧力をかわすことができると判断したようだ。

 セブン&アイはそごう・西武を米ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに売却する方針を打ち出した。両社は2022年11月にそごう・西武の売却で基本合意した。譲渡額は2,000億円超。フォートレスは店舗の改装や設備投資に200億円以上を拠出する計画だ。だが、詰めの交渉が難航した。井阪社長ら経営陣には大誤算となった。

西武池袋本店へのヨドバシカメラの出店計画

ヨドバシカメラ イメージ    米投資ファンドによる百貨店、そごう・西武の買収協議で、店舗の取得に参加する家電量販店ヨドバシホールディングスの出店計画を2月15日、NHKがスクープした。

 ヨドバシが出店対象とするのは西武池袋本店、西武渋谷店(いずれも東京)と、そごう千葉店(千葉市)。秋田市や福井市、広島市などにはある残り7店舗には出店しない。投資額は3,000億円規模で、ヨドバシは、株式の取得や役員の派遣は行わず、デパートの経営には関与しない方針である。

 ヨドバシは主力店である西武池袋本店の低層階の主要部分を確保することを重視している。高級ブランドが軒を連ねる百貨店の「顔」ともいえる売り場で、多数の集客が見込めるためだ。

 ヨドバシが主要フロアで営業する場合、テナントの大幅な配置換えなどが発生する。池袋本店は全国3位の売上を誇るだけに、配置換えにともなう売上の減少を嫌う既存テナントの反発も予想される。

地元・豊島区がヨドバシの進出に猛反対

 西武池袋の低層階へのヨドバシ出店に対し、地元の東京都豊島区の高野之夫区長(2月9日死去)は22年12月の記者会見で、「西武池袋本店は池袋の顔であり街の玄関だ。家電量販店は(高級ブランド店などが営業している池袋本店の)低階層に入ってほしくない」と語り波紋を呼んだ。

 西武の低階層にヨドバシが出店すれば、ルイ・ヴィトン、グッチ、エルメス、ティファニーのような海外高級ブランドの撤退につながる。これら海外ブランドを含めて西武が撤退すれば、池袋から文化の土壌が消失してしまう懸念があるというのだ。

 また、高野区長は、ヨドバシの進出が家電量販店の過当競争を招くと懸念している。池袋東口には、ビックカメラが本拠を構えているだけでなく、ヤマダデンキも三越跡地に入居して首都圏の代表店だ。西口の東武百貨店には、ノジマが入居する。

 ここにヨドバシが参入して、4大チェーンの激しい家電競争が繰り広げられる。池袋は完全に家電の街、第2の秋葉原になるという。

 高野区長は、西武池袋の地権者で約50%土地を保有する、西武鉄道の持株会社、西武ホールディングスに、百貨店存続の嘆願書を提出した。西武ホールディングスの後藤高志社長(当時、4月1日付で会長)は、メディアとのインタビューでこう語っている。

「頭ごなしにヨドバシさんをノーというつもりはない。ただ、池袋がある豊島区は長年、この地域を世界のアートカルチャーが集まる国際文化都市に生れ変わらせようと努力してきた。家電量販店激戦地のイメージが先行するはいかがなものかと思う」

OB株主がそごう・西武の売却を差し止める法廷闘争

 混迷を極めるそごう・西武の売却交渉は、法廷闘争に突入した。セブン&アイの株主が同社の取締役を相手取り、2月27日、東京地裁にフォートレスへの株式譲渡を差し止める仮処分を申請した。

 提訴したのはセブン&アイのOBら株主だ。株主側は、西武池袋本店などの保有不動産の鑑定評価額と比べて、譲渡価額は不当に安価だと主張した。「東洋経済ONLINE」(2月27日付)は、その理由をこう伝えた。

 〈「アクティビスト(物言う株主)からの要求に応えることだけを目的に売却を急ぐあまり、そごう・西武の労働組合をはじめ、地元や地権者といったステークホルダー(利害関係者)の理解を得る努力を怠るなど、(セブン&アイが)しっかりとした手続きを踏んでこなかったから」(セブン&アイ幹部)との声は少なくない」〉

 東京地裁は3月22日、株主側が求めた株式譲渡を差し止める仮処分申請を却下した。株主側は即日抗告。本訴を起こすことも表明した。法廷闘争は長期化する。そごう・西武の売却は凍結される。

 百貨店の幕引きは大乱調。契約が白紙に戻ることはあるのか? 「物言う株主」は不満を募らせており、5月の定時株主総会に最大の山場を迎える。

(了)

【森村 和男】

(前)

関連キーワード

関連記事