2024年12月22日( 日 )

自治会がなくなれば居場所もなくなる(前)

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大さんのシニアリポート第121回

 私が住む公営の集合住宅に隣接するURには自治会がない。当初、自治会立ち上げの機運があったものの、UR側が難色を示しことごとく潰されたと聞く。千葉県松戸市にあるUR常盤平団地自治会のように、徹底した家賃の値上げ反対闘争やさまざまな要求に辟易してきたという実情があった。自治会がないので、夏祭りをはじめ、住民が参加する行事がない。だから、隣に住む住人が分からないという不安が顔をもたげる。

社会的つながりを求めるには

団地 イメージ    「気軽でいい」「付き合いが面倒」「役員を引き受けたくない」…。気ままに暮らせるという利点はある。その一方で、団地内に気心の知れた友人ができないので、気軽に相談もできないし、もしものとき隣人に救助を求めることができない。生活情報も入りにくく、行政がもっているさまざまなセーフティネットもうまく活用できない。

 すべてが自己責任として処理される。行政の関係部署の窓口を叩けばいいのだが、その勇気がない。切羽詰まって社会福祉協議会に救済を求める人が後を絶たない。最近も、所持金15円の生活困窮者がきたという。追い詰められなければ窓口を叩かない。「生活保護だけは受けたくない」と頑なに拒否する女性もいたと聞く。

 女性の自殺率が高止まりしているという。依然として男尊女卑という考え方は存在しており、新自由主義が横行している現在、「自己責任論」が社会の底辺には根強く存在している。何事においても男女格差は厳然としてあり、具体的な将来像を描けない女性が、私の周りにも多い気がする。

 ベストセラー作家で映画監督のレティシア・コロンバニさんは、『朝日新聞』(4月11日付)紙上で、女性の自殺率が高止まりしている状況に、「多くの人にとって、『気分が悪い』『生きづらい』という感じがあるのだと思います。つながりが絶たれ、『見捨てられた』と感じています。女性を苦しめる家父長制や家事や育児の性別役割分担などの伝統も問題です」と説く。
 新しく発足したこども家庭庁内に、自殺対策部署を設けるという。何を今さらという気がしてならない。具体的な内容も示さず、ただ「設置します」では、どこかの首相の「異次元の…」と同じだ。すでに、全国には「いのちの電話」があり、24時間対応している。

 NPO法人やボランティアでの応対なので限界がある。対応する相談員の数も資金的な背景も乏しく、悪戦苦闘の連続だという。この場所をこども家庭庁が支援すればいいだけのことだ。

 「やっています」というアリバイづくりばかりでは問題解決は先送りばかり。おそらく機能不全で稼働せず、無駄なカネばかりがつぎ込まれることになるのは明白だ。得意の言葉による「綾(あや)」を駆使し、決して失敗を認めることはないだろうが・・・。

自治会誕生は、親睦を深めて自分を守ろうという意識から

サロン幸福亭ぐるり    自治会が曲がり角にきているという声を聞くのは久しい。現在全国には約30万の自治会や町内会があるという。その運営方法は千差万別で、法律で定められているわけではない。基本的に任意団体扱いで、その地域に住む人なら入退会は自由である。

 ただ、私が住む公的な住宅の場合は、入居時に自治会加入を前提とする雰囲気でカギを手渡されるので、入会が入居条件なのだと思い込んでいる住人も多い。共益費などの徴収を自治会に任せることで担当部署の負担減につながるからだ。

 東京都立大の玉野和志教授(地域社会学)は、「そんな仕組みは大正から昭和にかけて形成された。都市化によって多くの人が都市に流入し、隣近所に誰が越してくるか、不安を感じる人が増えたためだ。『親睦を深めて自分を守ろうという意識が生まれ、全員参加が前提になった』。世界的に見ても珍しい仕組みだ」(『朝日新聞』年3月5日付)。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第120回・前)
(第122回・前)

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