大西洋両岸、GAFAMとLVMHの繁栄~奢侈品需要が目安になる(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は5月8日発刊の第331号「大西洋両岸、GAFAMとLVMHの繁栄~奢侈品需要が目安になる」を紹介する。稼いだ企業が需要を創造するとは限らない
新産業革命には供給力の増加と需要増加という二面性がある。技術進化(=生産性の向上)により供給力は増大するが、需要の増加が伴わなければ、増加した供給力は活用されないばかりかデフレギャップを高め、経済の収縮を招いてしまう。問題は技術進化を主導している企業が必ずしも需要創造の担い手にはならないことである。企業が稼いだ所得が他のセクターに移転し、そこで需要増加の好循環が始まらなければならない。
過去200年間に米国の農業の労働生産性は50倍に高まった。その結果、100人のうち74人が従事していた農業労働者は200年間で2人へと激減した。農業労働生産性向上の果実は、他の部門に移転し、そこで全く新しい需要が創造され、農業から失業した72人の新たな雇用生まれた。
農業から解き放たれた労働者は工業、エネルギー・公益・インフラ産業、教育・医療・娯楽・プロフェッショナルサービス産業、金融・不動産産業など、以前には全く存在していなかった産業に配置された。これらの新規雇用は人々の生活水準を飛躍的に高めるもので、それにより経済規模が大きく拡大した。
人類はこの農業が200年かけて成し遂げた変化(年率2.0%の生産性向上)をハイテク分野において著しく圧縮して実現しつつある。2年で2倍というムーアの法則でハイテク産業の生産性が高まるとすれば、農業分野で200年間かかった変化がハイテク分野では10年間に圧縮されて起きることになる。急ピッチでの新規需要と新規雇用を創造し続けないと、直ちに供給力過剰の大恐慌に陥ってしまうのである。
米国で保たれている、価値創造と需要創造の好循環
企業の稼いだ付加価値は、①賃金上昇として家計に向かうか、②配当・自社株買いを通して株主に向かうか、③税収増などを通して国家予算に向かうか、多様なチャンネルを通して需要創造に繋げなければならない。そして今の米国では、この3つのエンジンが機能しているようである。
企業は獲得した利益の大半を配当と自社株買いとして株主に還元し、株高と長期金利の引下げを通して、家計消費の基盤を支えている。2022年のS&P500企業の株主総還元率(配当+自社株買い/株式時価総額)は4.6%、米国企業(非金融)全体の還元額は1.49兆ドル、GDP比6%と巨額に上り、株価を押上げ、長期金利を引き下げて、消費を支えている。
消費が堅調であることで、雇用も好調、かつ適正な賃金上昇が保たれ、それがさらに家計を支えている。また、昨年成立のChips法、IRA(インフレ抑制法)により、政府による産業支援支出が動き始めている。
ゾンバルトは別の著書「戦争と資本主義」において、戦争が大量の需要創造と規律ある供給体制の整備を推進し、資本主義を発展させたとも論じている。ウクライナ戦争支援や米中対立も米国の総需要を支える要素となっている。
このように米国における堅調な消費と雇用動向、および欧州奢侈品産業の好調さは、大幅な金融引き締めの後でもなお世界経済の好循環が維持されていることを示唆している。
(了)
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