2024年11月05日( 火 )

居場所って、いろいろあります(後)

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大さんのシニアリポート第123回

 運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)をオープンして8月で16年目に入る。2004年夏、私が住む公営住宅内でふたりの孤独死者が出た。当該自治会はこの問題に無関心を示した。08年、『団地が死んでいく』(平凡社新書)上梓を機に団地集会所に高齢者の居場所「幸福亭」(後に改名)を独自に立ち上げた。モットーは当然「孤独死者を出さない」である。

本来の「居場所」という意味

サロン幸福亭ぐるり    「居場所」という言葉がマスコミなどに頻繁に登場し始めたのは、2000年の介護保険誕生のころからではないかと思う。それ以前にも個人的な言葉としては使われてはいた。「家にオレの居場所がない」「居場所(居所)くらいは知らせろよ」など。居場所には「自分のよりどころとする場所」という意味が込められていた。

 「自分が必要とするところ」だから必要とする居場所の判断基準は自分にあった。居酒屋でもバーでも自分のささやかな居場所だった。疲れた自分の再生機能付き居場所だった。趣味やスポーツなどのサークル、茶飲み友だちのいる場所、道の立ち話だって広い意味での居場所といえた。見方を変えれば会社だって居場所(居心地の善し悪しは別として)といえた。

 「人が集まるところが居場所」と考えがちだが、読書をする空間だって本人にとっては居場所といえる。「自分だけの空間(位置づけ、ポジション)」も立派な居場所だ。つまり孤独も自分の空間(居場所)といえるのではないか。

 「居場所」の対極にあるはずの「孤独な場所」なのに、見方を変えるだけで同義語になる。必要なのは、「位置する場所が自分にとって必要か否か」だろう。こう考えれば、「居場所を必要と感じていない人を無理に引っ張り出す」という必要はないのではないかとさえ思えてくる。

 孤独を愛する人にとって「ぐるり」の価値は意味をなさない。15年前、粋がって「家で孤立している人を『ぐるり』に集め、住民同士の新しい出会いを模索する。このことが必然的に孤独死からの回避を生む」という、いささか性急な、思い上がり感の強い意識があったが、発足当時はたしかに有効だったと思う。

 コロナ禍後、常連客は通い慣れた自分の居場所(サテライト)に籠もり、「ぐるり」を訪れる機会は大幅に減少した。当然運営にも、維持するモチベーションにも大きく影響を来している。

 閉亭を考える時期にきていることは事実なのだが、食事に窮する子どもたちのために活動する「子ども食堂」のボランティア、マッスル体操のためにわざわざ遠方からきてくださるトレーナーの元気な様子を目の当たりにするたびに、「閉亭」の二文字が薄れていく。

最近、「居場所」という言葉が新しいかたちで使われ始めている

サロン幸福亭ぐるり    最近の「居場所」発言で、注目されるのが、公人による性的マイノリティーやその他のマイノリティーを差別する発言が繰り返されること。そのたびに、彼らの居場所のなさを痛感する。

 朝日新聞(23年6月7日)で、俳優でタレントの東ちづるさんが、「障害、国籍、ジェンダーなど、さまざまな違いがある。その違いを理由に排除するのではなく、一緒にいる居心地の良さをエンターティンメントで伝えます。まずは存在を知って欲しい、そのことが『居場所』にもなると思います」と述べていた。

 コン・イーチュンさん((株)ライフル「フレンドリードア」事業責任者)は、「物理的な『居場所』である住まいは、暮らしを支える場所です。けれども外国籍、高齢者、同性カップルであることなどが理由で、住まいを借りるのに苦労する人たちがいます。そうした人たちの物件探しに協力的な不動産業者を検索できるサービスを運営しています」と話している。

 社会学者の森山至貴さんは、「首相は、自分の保身や正当化のためにLGBTQを出しに使いました。同性婚を後押しすることもなく、自分はいい人だ、誠実なんだとアピールするために、差別を利用したのです。政府幹部によるこうした発言は、むしろさまざまなマイノリティーに『この国には居場所がない』と感じさせました」と発言する。

 居場所という言葉は、自分が想定する以上に広範囲に使われている。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第123回・前)
(第124回・前)

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