2024年11月24日( 日 )

急増する発達障害を防ぐために 新生児を低体温と低血糖から守れ!

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医学博士・産科麻酔医
久保田史郎 氏

日本の分娩室は赤ちゃんには寒すぎる

医学博士・産科麻酔医 久保田史郎 氏
医学博士・産科麻酔医
久保田史郎 氏

    私は1970年に大学を卒業する際、無痛分娩を学ぶために麻酔科に入局しましたが、そこで術後患者の体温管理の重要性について関心をもちました。2年後、私が麻酔科から産婦人科に移ってすぐに気づいたことは、出生直後の赤ちゃんは“寒さに震えている”ということです。しかし、一般的には赤ちゃんが寒そうにしているのは生理的現象だと見なされていました。それ以来、私は日本の分娩室は「赤ちゃんには寒すぎる」として、新生児の低体温(冷え性)に警鐘を鳴らし続けています。

 私に「冷え性は万病の元」であると教えてくれたのは、手足が冷たくなった赤ちゃんです。赤ちゃんを出生直後の2時間、34度の保育器に入れるだけで手足の冷えはなくなります。すると生後1時間後からの初期嘔吐もなく、糖水をぐいぐい飲み始め、胎便もすぐに出ます。適切な体温管理によって、私の産院から重症黄疸の赤ちゃんは姿を消しました。一般には新生児黄疸は出て当たり前と思われていますが、適切な体温管理をすれば重症黄疸はほとんど発生しないのです。

出生直後の低血糖が発達障がいの根本原因

 新生児の低血糖症の問題に私が気づいたのは81年です。新生児の体温調節の研究中に、偶然にも体温調節機能不全に陥った低血糖症の赤ちゃんに遭遇しました。体温の異常に気がつかなければ確実に低血糖症で障害児になっていたケースでした。この診療経験から、人間が重度の低血糖症に陥ると自律神経機能不全に陥り、体温調節・呼吸循環などの生命維持機構が正常に作動しないことがわかりました。私は83年に産婦人科を開業し、それから閉院するまでの34年間、出生直後の低体温と低血糖(飢餓)を防ぐ管理をすべての赤ちゃんに行ってきました。

 日本ではある時期から、発達障害が急速に増加しています。その大きな要因として考えられるのは、カンガルーケア(出産直後に母親が裸のまま胸のうえで抱っこするケア)と完全母乳の推進です。この2つの産後ケアがなぜ発達障がいの原因となるのか説明します。

カンガルーケアと完全母乳はなぜ危険か

 これまでの研究で、発達障がいの約95%は低血糖症が原因であると確信しています。新生児が低血糖症に陥る危険因子は3つあります。

 (1)新生児の高インスリン血症:インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、妊婦が糖分を過剰摂取することによって、新生児の高インスリン血症を引き起こします。日本では高インスリン血症児は5~6人に1人います。高インスリン血症児は内的に低血糖要因を抱えていますから、そこにカンガルーケアと完全母乳が加わると重篤な低血糖症に陥ります。私の産院では開業当初から体重管理を厳しくして、新生児の高インスリン血症を防いできました。

 (2)出生直後のカンガルーケア:カンガルーケアは新生児から確実に体温を奪い低体温を引き起こします。すると赤ちゃんは全身の筋肉を使って産声を挙げ、熱を産生し、低体温を防ごうとします。激しく筋肉運動(啼泣)するので、大量の糖分を消費するのです。赤ちゃんを抱っこしたお母さんは皆、「赤ちゃんは温かいですね」と言いますが、これは赤ちゃんの体温が母親の体温(腹部の皮膚温)より高いためで、抱っこにより母親が赤ちゃんの体温を奪っているのです。(公社)日本産婦人科医会はカンガルーケアに体温上昇作用があるとの見解を示していますが、そのような科学的に誤った見解が低体温症を増やしています。医会はカンガルーケアに体温上昇作用・呼吸循環の安定・血糖値の上昇効果がないものと認識を改め、正しい見解を発表すべきです。

 (3)完全母乳:完全母乳が危険なのは、出産直後の3日間は母乳がほとんど出ないためです。この期間、完全母乳を強いられた赤ちゃんは飢餓状態に陥り大変危険です。完全母乳の赤ちゃんに重症黄疸が多かったり、著しい体重減少がみられたりするのは母乳が出ていなかった証拠です。

 低血糖の時間がどれくらい持続したのかが発達障がいの重症度の決め手になります。発達障がいの発生増加は、完全母乳ならびにカンガルーケアの普及時期と一致しており、強い因果関係がある可能性が高いため、この2つの産後ケアの在り方を即座に見直すべきです。

日本古来の「産湯」と「乳母制度」の力

 この問題の解決のカギは日本古来の知恵にあります。日本では昔から出産時にお湯を沸かし、赤ちゃんを「産湯」に入れていました。湯を沸かすのは産室の温度を上げるためであり、さらに産湯に入れることで低体温のリスクを減らしてきました。また、乳母制度は新生児の低血糖を防いできました。現在、発達障がいの原因について先天的な脳の機能障害と決めつけられていますが、それは間違いです。かつて発達障害・医療的ケア児がほとんどいなかったのは、産湯と乳母制度が発達障害を予防してきたからなのです。これに学ぶことが、増加する発達障がいの問題の解決の糸口です。

 日本の伝統的な「産湯」を止め、寒い分娩室にカンガルーケアを取り入れた厚生労働省の判断は間違っていました。私は低血糖と発達障がいの関連性について学会で何度も発表してきましたが、カンガルーケアと完全母乳を推進してきた日本産婦人科医会と厚労省はそれを無視し続けています。16年3月12日、私は安倍晋三総理(当時)に招かれて自民党本部で「発達障がいの原因と予防」について講演を行ったことがあり、講演に対する反応はよかったものの、官僚の施策には反映されていません。

 私は改めて提言します。カンガルーケアと完全母乳の推進を直ちに中止し、低体温・低血糖防止を基本にした産後ケアに改めるべきです。


<プロフィール>
久保田史郎
(くぼた・しろう)
1945年生まれ。70年東邦大医学部卒、同年九州大学麻酔科に入局、72年産婦人科へ移籍、83年福岡市平尾で久保田産婦人科麻酔科医院を開業、2017年閉院。34年間で1万6,000人のお産に立ち会う。(特非)グリーンハットインターナショナル(国連経済社会理事会の特別協議資格保有組織)理事。著書に『カンガルーケアと完全母乳で赤ちゃんが危ない』(小学館、2014年)、『妊婦と赤ちゃんに学んだ冷え性と熱中症の科学』(東京図書、2017年)など。

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