2024年12月28日( 土 )

J1定着とアジア躍進へ 34歳社長が導くアビスパ新時代

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アビスパ福岡(株)

経営面からもチームを強化

 アビスパ福岡が、強い。というと、「別に優勝したわけでもないのに」と不思議に思われる方もいるだろう。しかし、これはまぎれもない事実である。2021年の8位は、1996年のJリーグ参戦以来J1リーグ最高位タイ。2022年は14位に沈んだものの、J1残留をはたし、23年は3年連続J1で戦う権利を手にしている。リーグ優勝経験があるチームがJ2に沈むことも珍しくない、「世界で最も競争が激しいリーグ」と呼ばれるJ1リーグで戦い続けるということは、「強い」チームの証なのだ。

 さて、その強いアビスパを経営面で支え続けた川森敬史前社長の後を継ぎ、4月27日に代表取締役社長に就任したのが古屋卓哉氏(川森前社長は同日付で代表取締役会長に就任)。弱冠34歳の若き社長は、「“アビスパの社長”と呼ばれるのには、まったく慣れませんね」と苦笑するが、そのビジネスマンとしての手腕は折り紙付きだ。

アビスパ福岡(株) ​​​​​​​代表取締役社長 古屋 卓哉 氏
アビスパ福岡(株)
代表取締役社長 古屋 卓哉 氏

    11年に(株)アパマンショップリーシング(現・Apaman Property(株))に入社した古屋社長は、瞬く間に頭角を現す。店舗スタッフから店長、そして東京西部エリア統括マネージャーへと一気に出世の階段を駆け登ると、APAMAN(株)本社勤務に抜擢。大村浩次社長直属となり、fabbit(株)でのシェアオフィス事業、起業家支援事業、営業組織の立ち上げなど、新規事業の開発に携わる業務を担当し、今回のアビスパ福岡社長就任となった。

 古屋社長の経営者としての「強み」は、管理会計の面から事業を分析し、会社の経営面を強化していく能力。スポンサーやサポーターから幅広く愛される川森会長が外側から会社を強くしていくタイプだとすれば、古屋社長は会社を内側から強化し、足腰を強くしていくタイプの経営者だ。「不動産の現場にいたころから、数字を見るのが好きで得意でした」と語る古屋社長は、まさにうってつけのパートナーといえるだろう。

 古屋社長が掲げるアビスパの将来像とビジョンは、「子どもたちに夢と感動を」「地域に誇りと活力を」というクラブ理念をより具体的に実現し、地域密着をはたしていく…というもの。目指すところは前任の川森体制と同じだが、そのために古屋社長には2つの解決すべき課題がある。

 まず1つは、入場者数を増やすこと。昨年のアビスパ主催試合での入場者数は、一試合平均7,150人とJ1では最少。最多は浦和レッズの2万3,617人、J1平均は1万4,328人と、他クラブに大きく水をあけられていることがわかる。150万の人口を誇る福岡市をホームタウンにしていることを考えると、この数字は要改善ポイントといえるだろう。

 多くの観客にスタジアムまで足を運んでもらうためには、チームを強化して勝利を重ねることと、宣伝・広報や顧客誘致施策などマーケティング分野での努力の双方が必要だ。「チーム強化については立石敬之取締役副社長(ベルギーリーグ・シントトロイデンCEO兼務)、柳田伸明強化部長を中心とした強化部に、全幅の信頼を置いています。今後はさらにアカデミーやスクールなど育成に力を入れ、中長期的なチーム強化にもしっかり取り組んでいきます。

 ファン・サポーターの拡大は、経営戦略のなかでも最重要課題としてこれから議論を重ねていく予定です。近年では16年に年間25万人の来場者を記録したのが最多でしたが、J2降格やコロナ禍などもあり、来場者数は伸び悩んでいます。この数年スタジアムにお越しいただいていない方、まだスタジアムに足を運んだことがない方にどう来場していただくか、マーケティング部門と構想中です」(古屋社長)。

 もう1つの課題は、クラブの財政面だ。Jリーグに加盟しているクラブは毎年経営情報を開示する義務があるが、これによるとアビスパ福岡は22年度で4期連続の赤字決算となり、約3億3,000万円の債務超過を抱えている。Jリーグの本来のルールでは3期連続での赤字決算と債務超過に陥った場合はクラブライセンスが剥奪される厳しいペナルティが設けられている。20年度から23年度については新型コロナウイルスに関する特例として据え置きとなっているが、24年度からは従来通りの規定となることが決定した。債務超過の解消と黒字化は、待ったなしの重要課題だ。

 これに対し、「あまり問題視はしていません」というのが古屋社長の答えだ。「まず、ここ3シーズンは、J1定着のために選手人件費に大きな投資を行っています。投資が実るのを待つ時期であることと、コロナ禍で観客を多く入れられない時期が重なったことから、収支は赤字となりましたが、これはイレギュラーではなく予想できる範囲のことでした。今期は入場者数の制限はありませんから、ここで多くのお客さまにきていただき、収入を増やしていきたいと考えています」。

DAOでコミュニティと収入の増加に期待

ホームゲーム開催時のベスト電器スタジアム。広場にはさまざまな アトラクションや売店がならび、訪れる人たちの笑顔であふれている
ホームゲーム開催時のベスト電器スタジアム

    コロナ禍の影響を脱し、観客動員を増やすことがそのままクラブの増収につながる今こそ、思い切った施策が求められる。古屋社長は「スタジアムを満員にできるようなイベントを考えていますので、どうぞご期待ください」と意気軒高だ。

 収益構造改善のための最先端の取り組みが、Avispa Fukuoka Sports Innovation DAO(以下、アビスパDAO)。DAOは「自律分散型組織」の略で、ビジョンに賛同する人々が自主的に協力し、自律的に運営するコミュニティのこと。当初はアビスパ福岡が主導するかたちで推進するが、ゆくゆくはメンバー間の討議や投票によって事業を推進していくという。アビスパDAOの活動内容として検討されているのは、デジタルアイテムNFTの制作と配布、アビスパの今後を担う若手選手育成について考えるアカデミープロジェクト、スタジアム体験の向上を目指す感動体験創出プロジェクト、地域の課題解決を通じて地域貢献を図るプロジェクトなどだ。

 「DAOを通じて新たなコミュニティと収入増に取り組んでおり、大きく育てていくつもりです。ほかにもさまざまな施策を検討し、手数を増やしてさらに収入を増やしていこうと考えています」(古屋社長)。

 今後のアビスパに求められるのは、さらなる地域密着と地元での存在感の強化。現在、福岡市のほか県内16の自治体とフレンドリータウン協定を締結している。さらに今年から、自治体ごとに2~3人の選手を「応援アンバサダー」に任命し、各地域の住民がアビスパをより身近に感じるための取り組みをスタートした。自治体への訪問やSNSで発信を行っているが、選手たちが自主的に担当する市町村に興味をもって町のことをネットで調べ、各自のSNSで発信するなど新しい動きも出てきているという。

 「スポーツがもつ力は、非常に大きいと考えています。アビスパというサッカークラブが福岡にある、ということを我々がどんどん発信することで福岡のイメージもまた向上していくと信じて取り組んでいます」(古屋社長)。

 アビスパと福岡、双方が手を取り合って発展し、新しい時代を切り拓いていくことを期待したい。


<COMPANY INFORMATION> 
代 表:古屋 卓哉
所在地:福岡市東区香椎浜ふ頭1-2-17
設 立:1994年9月
資本金:3億7,155万円
TEL:092-674-3020
URL:https://www.avispa.co.jp


<プロフィール> 
古屋 卓哉
(ふるや・たくや)
1988年11月生まれ。東京都出身。2011年、(株)アパマンショップリーシング(現・Apaman Property(株))入社。グループ各社のfabbit(株)、Apaman Network(株)などを経て、21年、SS Technologies(株)SST推進部事業部長(現・任)、22年、満室経営ネットワーク(株)代表取締役(現任)、23年4月、アビスパ福岡(株)代表取締役社長に就任。

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