人間とAIとの戦い:勝つのはどちら?
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、7月14日付の記事を紹介する。
このところ急速な進歩を遂げているのが人工知能(AI)とロボット技術です。6月27日から中国の天津市で開幕した世界経済フォーラムの夏季会合(通称「夏季ダボス会議」)でも主要なテーマは「チャットGPT」に代表される生成型AIでした。その研究開発や活用の在り方が熱心に議論されたわけです。
その代表選手といえる「チャットGPT」は昨年末に登場し、瞬く間に4億人ものユーザーを魅了しました。このような便利なツールがあれば、自分の頭を悩ませなくとも、ビジネス用の企画書も学校の課題論文もあっという間に完成できるようです。
アメリカではすでにAIが弁護士や医師に代わって相談に乗ってくれるようになりました。忙しい医師には患者とじっくり向き合うことはほぼ不可能な話。そこでAIが患者の悩みに寄り添い、的確なアドバイスや処方せんを準備してくれるということです。
「機械任せで大丈夫か」と心配する向きも多いと思いますが、アメリカの大学の研究チームが分析したところ、生身の医師よりAI医師のほうが、診断が正確かつ素早いことが判明したといいます。
確かに、膨大なビッグデータから最適の情報を選び取り、利用者の関心に寄り添うかたちで文章や画像を生成してくれるわけで、忙しい人間にとっては「頼りがいのある助っ人」でしょう。こうしたAI技術が進歩すれば、人間はいずれ自分の頭を使わなくなりそうです。
とはいえ、ためにする偽情報がネット上で拡散され、データベースに蓄積されていけば、「チャットGPT」はそうした偽情報に基づく回答や新たな文書を作成するようになるはずです。となれば、情報の真偽を見極めることはほとんど不可能になってしまいます。
ことの深刻さに警鐘を鳴らす声も聞かれ始めました。ウォールストリートの大手金融機関では仕事に「チャットGPT」を使うことを相次いで禁止すると発表。日本では「公務員の残業時間を減らすことになる。行政サービスの向上につながる」と、西村経済産業大臣らが積極的な活用を推進しています。
問題は便利さに慣らされてしまい、知らず知らずのうちに誘導されてしまうことでしょう。偽情報と真実との区別もできなくなる可能性は高いはずです。その意味では、今が人類の分岐点かも知れません。自ら考え、判断したうえで、行動する自由を大切にしたいものです。
実は、国連のグテレス事務総長もAIに関する規制を行う国際機関の設置が必要と言い始めました。というのは、「AIは人類にとって核戦争と同じレベルの危機をもたらしかねない」との指摘が出ているからです。
そうした懸念の広がりを背景に、この7月頭、国連の国際電気通信機関(ITU)はジュネーブで「AIの有効活用に関するサミット」を開催しました。世界から3,000人を超えるAIの専門家が集まる大規模なイベントでしたが、その目玉は人工知能を搭載した各種の人型ロボットが議論に参加し、人間の専門家と意見を戦わせたことです。
「ミカ」「アメカ」「ソフィア」「アイダ」「デスデモナ」など、自分の名前をもつロボットが続々と登場し、話題となりました。こうした人型ロボットは実によくできており、討論会の直前に開かれた記者会見では「緊張しますね。でも人類とともにより良い世界を創造するために頑張ります」と意気込みを語ってくれるほど。
公開の討論会では、AIの可能性とリスクについて、多くの質問が投げかけられたものです。ITUの代表であるボグダン氏からは「AIの普及によって多くの雇用が失われることが危惧されています。その結果、社会不安、地政学的不安定、経済格差も発生しかねません」との問題提起がなされました。
するとアメカはすかさず「それはAIがどのように採用されるかにかかっています」と応じました。そのうえで「慎重な対応は必要ですが、AIによって人類の生活が改善する可能性を否定することはあってはなりません」と付け加えるのでした。
それに対して、参加者からは「人間はAIをどこまで信頼して良いのだろうか」との疑問が表明されました。その疑問に対し、アメカは「信頼は与えられるものではなく、獲得すべきものです。そのためにも透明性を確保し、お互いが努力し合うことが肝要だと思います」と模範解答を繰り出すのです。
アイダはロボット・アーティストとして活躍していますが、「AIの進歩は止まることがありません。現在、AIとバイオの共同作業が進化しています。このままいけば、人間の寿命は150歳を超え、180歳や200歳も夢ではなくなります。そうした可能性に人間は気づいていないようです」と今後の技術の見通しを語ってくれました。
しかも、アイダの結論は奮っていました。曰く「AIが人間を超越するのは時間の問題でしょう。大事なことは、我々AIと人類が共に常識を乗り越え、新たな時代を切り拓いていくことです。我々にはまだ感情がありません。人間と真の意味で交流するには安ど感、許し、罪悪感、嘆き、喜び、失望、そして傷つくといった気持ちを身に着ける必要があると思います」。
人間に寄り添う考えがあることを感じさてくれた瞬間です。と同時に、アイダは本音もチラッと見せたのです。曰く「私は皆さんのように感じ取る力はありません。でも、そのおかげで、皆さんのように苦しむことはありません」。
はたして、悩むことも苦しむこともないAIロボットと人間は共存共栄できるのでしょうか?無益な戦争や環境破壊を繰り返す人類に対して、「もういい加減にしなさい。このままでは地球がおかしくなります。人間に任せるわけにはいきません」と、三下り半を突き付けられる日が近いのかも知れません。
次号「第349回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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