ひきこもり146万人をどう見るか(後)
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全国の15~64歳でひきこもり状態の人は、推計146万人いるという(3月31日、内閣府調査結果発表)。最大の理由として、「新型コロナウイルスの流行のため」を挙げている。新型コロナを第5類に分類して約2カ月。マスク着用率も大幅に下がり、普段と変わらない生活を送れるようになったように見える現在も、約50人に1人がひきこもり状態というのは異常であり、大きな理由がありそうだ。
ひきこもるのは男だけではない
一昨年私の住む公的な集合住宅で4人の孤独死者が出たと報告した。その4人とも男性だった。「ひきこもりの末に孤独死するのは男」という一方的な刷り込みを否定できない。ひきこもりをする女性はいないのだろうか。
内閣府(4月からこども家庭庁が引き継ぐ)が発表した調査結果を見ると、中高年(40~64歳)では、女性が過半数を占めた。15~39歳でも女性が45・1%と多い。国のひきこもりの統計の取り方が、「主婦(夫)」や「家事手伝い」を除外していた。これが今回の調査で、直近の半年間に家族以外の会話がほぼなかった場合をひきこもりとして加えるようになったのが大きい。
(一社)「ひきこもりUX会議」林恭子代表理事は、「ようやく実態に追いついた数字が出た」と語り、ひきこもり当事者と家族を支援する「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」共同代表山本洋見さんも、「これまで主婦や家事手伝いとみなされてきた女性らがSOSの声を挙げ始め、可視化された」と述べている。
自治体のなかには、「ひきこもりは男性が中心」というイメージを持つ担当者もいて、女性を支援することに疑問を示されたこともあるという。当事者のなかにはDV(家庭内暴力)や性被害の経験を持つ女性もいるという。役所の支援窓口が男性職員だったり、当事者の集まりが男性中心だったりすると女性は相談しにくくなる。国がひきこもり調査のやり方を変えたことで、「ひきこもりは男女半々」ということが判明し、支援の見直しの材料になることを期待したい。
ひきこもり回避には住宅支援も
ひきこもりになる要因は人によって様々である。最大の原因は、「コロナ禍による生きづらさ」だろう。KHJ副代表の池上正樹さんは、「コロナ禍で失業して心が不安定になったという相談が相次いでいる」とし、厳しい雇用環境が影響している可能性もあるとみる。また、NPO法人「ウィークタイ」では居住支援を始めた。コロナ禍で家族全員が家にいる状態では、家族関係にひびが入りやすい。悪化する家族もいるという。代表理事の泉翔さんがこの施設を立ち上げたのは、自身の体験が決め手だった。気の合う仲間には不登校の人、家族関係の悪化で家にいられない人もいた。それが下宿というひとつ屋根の下では居心地が良かった。「たむろできる場所で何となく一緒にいたら、それだけで元気になれる。『これやな』と思いました」という。
当事者の地元で開かれる当事者会には、近所の目もあって足を運びにくい。逆に県外から電車やバスを乗り継ぎ、やっとの思いで来てくれる人も多く、宿泊施設があれば地域を越えてつながることができるという考えからだ。借用した民家を当事者用のシェルターとして運営する。「家で寝るよりもぐっすりと眠れる」という利用者の声。実家はあるが、コロナ禍では「心安らげる居場所」ではなくなった。
「行政や多くの支援団体の就労支援のトレーニングでは、『当事者は働きたいと思っていない』ことを前提にすすめる。でも、居場所でいったん元気になった人はほぼ自分から働きます」と断言する。実際の現場で見てきた人の言葉は重い。ひきこもり支援の方法は1つではない。さまざまな関わり方を模索する必要性を強く感じた。それはひきこもり状態になる人の要因が多岐にわたるからだ。
(了)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。関連キーワード
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