2024年12月22日( 日 )

東久邇宮国際文化褒賞 受賞者の声(2)世界で活躍する人材の養成、起業支援

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立教大学前総長 郭 洋春 氏

 23年7月17日、東京の八芳園にて東久邇宮国際文化褒賞授与式が執り行われた。経済学者で立教大学教授(前総長)の郭洋春氏も受賞者の1人だ。総長として21万人の卒業生を率い、教育者としては約300人の卒業生をゼミから輩出しており、卒業生は政財界をはじめ、世界中で経済社会の発展のために活躍している。郭氏はこのたび「世界維新の会(明川塾)」の塾長に就任した。同塾について、(一財)久邇宮国際文化褒賞記念会総裁・代表理事で、(一財)DEVNET INTERNATIONAL代表理事でもある明川文保氏との特別対談エピソードを交えながら、振り返りたい。

世界維新の会(明川塾)の設立へ

    明川氏は激動する令和の時代において、日本の教育機関やシステム在り方に危機感を強めている。

 「日本の大学は世界で順位を落としています。世界大学ランキング2023 (イギリスの高等教育専門誌Times Higher Education(THE))で、東京大学が39位、京都大学は68位です。このままではどんどん、世界から取り残されるでしょう」明川氏はと語る。そこで、明治時代を切り拓いた長州藩の松下村塾、薩摩藩の郷中教育のように、高い志をもった人物を育成する機関の必要性を説き、私塾「世界維新の会(明川塾)」の設立を宣言した。塾長には、第21代立教大学総長で経済学者でもある郭洋春氏が就任した。日本インテリジェンス協会と連携して、講師を選抜し、実践の場で学べるスタイルを用意している。

教育と向き合い続ける人生

 郭氏は「この塾のお話をいただいたとき、2018年の立教大学入学式で挨拶をした日を思い出しました。“これからは、行動力と創造力が必要な時代である。あの坂本龍馬もこの2つの力で新しい時代、明治を切り拓いた”という内容でした。明川塾が明治維新の革命をヒントに立ち上がったことに、強いご縁を感じたのです。私にできることは、協力させていただこうと決意しました」と振り返る。塾では若者だけでなくシニアも対象とする。さまざまな国から人から集まり、人種や思想を超えて積極的に学ぶ場所になるという。

 「先日、公開されたばかりのジブリ映画、“君たちはどう生きるか”の原作を学生時代に読みました。1937年の小説ですが、まさに今の時代に問われている内容です。たとえば、大学生は学校を卒業してもそこから80年近く生きることになります。自分はどう生きるのか、という指針は早めにつくるべきでしょう。それがなければ、壁にぶつかる度に何度も迷ってしまいます」と、語る郭氏は、塾生が自分らしく人生を歩むための指針づくりを重視している。

今後、教育が担う役割

 「現在、計画中のタイ運河建設はハードであり、それに対して教育はソフトだと考えてえています。どちらかに偏り過ぎず、バランスや状況に合わせた選択が必須となります」と話す明川氏は、急速な変化と進化が続く世界で、新しい教育のスタイルを熟考してきた。

 今や、強いリーダーを少人数で育てるという教育方針は古い。1人ひとりが自立し、自身の考えのもとに行動し、希望する生き方ができるよう、力をつけなければならない。自分はどう生きたいかという人生観を定めて、己の幸福を己自身でコーディネートできれば、世界中どこにいても幸福度は増すだろう。時代を見極めつつ、1人ひとりの力を伸ばして自立と幸福をサポートする、教育に正解はないが、それが現代における教育者がはたすべき、重要な役割の1つなのだ。

若者の夢や挑戦を応援する

 明川塾は、起業家養成塾でもあり、世界へ羽ばたく10万人の起業家を育てることを掲げている。

 「どんな大企業も、始まりはすべてベンチャーです。起業したいという人の思いからスタートしています。若者たちは志があっても、知見・経験・資本が不足しています。彼らが直面する、何をどうしていいのか分からないという状況において、適切に寄り添うサポーターの存在は大事です。世の中を良くするためにも、起業したい若者を応援していきたいです」と語る郭氏。企業と未来を創造する若者の挑戦と成長を、塾としても全力で支援する考えだ。

世界へ向けたメッセージ

 「教育が人を育み、日本を変えます。中国から大量の入塾希望の話もあり、明川塾は、新しい時代を牽引していくでしょう。国連では敵国条項がいまだに生きているといわれます。人材育成の先に、日本の安保理常任理事国入りと国連改革まで描いています」と明川氏。

 「世界の潮流は、ハードパワーからソフトパワーへ変化していると感じます。これからは武力による鎮圧ではなく、相互信頼、共存共栄と多様性の時代です。知恵、知見および信頼し合える人間関係の構築が必要不可欠であり、そのために教育が必要なのです」と郭氏。

 そして両人とも、これらを机の上ではなく社会のなかで学び、活かすことを共に掲げている。明治維新では、歴史の表舞台からは見えない、革命後の国家の土台づくりにコツコツと取り組んだ立役者が、大勢存在する。彼らの思想や志を支えたものも教育だという。今日の社会生活を支えるシステムの多くは、日陰で尽力したプロフェッショナルの努力と時間の成果なのだ。国を越えて世界で活躍する人物を輩出していくという、明川塾教育と未来に大きく期待をしたい。

【清家 麻衣子】


<プロフィール>
郭  洋春
(かく・やんちゅん)
1959年7月生まれ。立教大学教授。第21代立教大学総長(2018~21年)。01年から同大学教授、06年から政治経済学・経済史学会編集委員。14年、日本国際経済学会理事。22年から(一社)関育奨学金理事、国際アジア共同学会理事長

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