プリゴジン暗殺に見る命がけのロシアと平和ボケした日本
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23日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者・エフゲニー・プリゴジンが乗っていた自家用ジェット機が墜落し、同氏を含む乗客乗員10人が死亡した。本件に関する欧米各国の報道には、武装反乱を起こしたプリゴジンへの粛清、暗殺との見方が多い。歴史的にロシアでは、政治は命がけである。一方、日本は戦後70数年、平和を享受するなかで、政治に対する国民の関心は薄れている。
プーチンの料理人から反旗を翻すまで
ロシアによるウクライナ侵攻が始まったのは、2022年2月24日。それからちょうど1年半が経過したことになる。戦争の長期化によって、ロシア国内にも少なくない反発や水面下での厭戦気分が広がっている模様だが、プーチン大統領(以下、プーチン)の独裁体制の下、戦争に対する国民の批判は封じ込められている。
ロシアのウクライナ侵攻には、民間軍事会社である「ワグネル」の部隊が大きく貢献してきた。同社の創設者、プリゴジンは、ソ連崩壊後のロシアにおいて巨額の富を得た新興財閥(オリガルヒ)の一員だ。
出身がプーチンと同じサンクトペテルブルクという縁もあり、プリゴジンが経営するレストランに、客として訪れたプーチンと親交を深めて政治的影響力を強め、「プーチンの料理人」と呼ばれるようになった。
14年に民間軍事会社「ワグネル」を設立。これまでも世界中の紛争地域にロシアの対外戦略の一翼として傭兵を送り込み、なかでも今回のウクライナ戦争ではロシア側の主力として戦線を担った。もうひとつ、プリゴジンが創設にかかわったとされる情報工作会社「インターネット・リサーチ・エージェンシー」は、16年のアメリカ大統領選挙でフェイクニュースを流し、選挙に干渉を企てたといわれる。つまり、戦闘部隊・情報工作両面でプーチン政権を支えてきたといってよい。
ところが、6月24日、プリゴジン率いるワグネルの部隊が突如、ロシア南部軍管区司令部を占拠。さらにモスクワに部隊を進軍させたことで状況が一変した。プーチンはプリゴジンを裏切りと非難し、一方のプリゴジンは国防省幹部に問題があると応酬した。最終的にベラルーシの仲介で、ワグネルは撤収し、ロシア国内での内戦は回避された。その後、プーチンはいったんプリゴジンの罪を問わないかのような姿勢を示していたが、世界各国の外交・情報関係者の間では「プリゴジンはいずれ消される」との見方が専らだった。
今回の事件は、今なお旧ソ連・スターリン時代と変わらず権力をめぐって粛清の嵐が吹き荒れる、ロシア的政治風土が端的に表れた事件と受け止められている。西欧型の自由・民主主義体制がロシアに実現するのは、夢のまた夢だろう。
一番悪いのは国民の無関心
それに対して我が国・日本はどうだろうか。今年8月15日、筆者は東京にいた。ちょうど正午頃、東京在住の友人と昼食をとっていた。友人の夫は現職の地方議員であり、夫婦ともに福岡出身ということもあって福岡市政や次の衆議院選挙に関して話が弾んだ。その際「政治に対して無関心な人が多い」ことに話がおよんだ。
1945年8月15日、昭和天皇の玉音放送によって大日本帝国は事実上崩壊した。天皇と軍に代わってマッカーサー元帥率いるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による占領統治の下、日本国憲法が制定され、財閥解体や農地解放、女性参政権実現など多くの民主的改革が行われたが、日本国民が自らの意思で決定して行ったものではなかった。
時代が経つにつれ、それまでの日本人に少なからず存在していた権力への抵抗精神が次第に失われていく。それでも、90年代中頃までは、社会の前線に明治・大正期生まれの人材がおり、国を守る気概をもった政治家が多かった。
今、どこにそうした気概をもった政治家がいるのだろうか。選挙制度や教育などさまざまな問題が指摘されるが、一番問題なのは、投票率の低下にみられる国民の政治に対する無関心、無批判である。
『週刊文春』が7月13日号でスクープした、木原誠二官房副長官の妻がかつて結婚していた夫を殺した容疑で取り調べを受けていたことなどが話題となっている。文春は、当該事件の再捜査に木原氏が圧力をかけたことも続報し、死亡の経緯を捜査した元警視庁警部補(以下、元警部補)が実名で記者会見を行ったにもかかわらず、大手メディアはほぼスルーした。
本件について露木康浩警察庁長官は「警視庁において捜査等の結果、証拠上、事件性が認められない旨を明らかにしている」と疑惑を否定したが、元警部補は、木原氏にいつでも「クビは飛ばせる」と言われたなどの証言も行っている。
木原氏側は立憲民主党からの質問状に対して、「当該報道は、刑事告訴した」と回答。警察側も、事件性はなかったとあらためて否定し、官邸の接触もなかったとしている。
気概なき日本国民
岸田首相の側近である現職の官房副長官が警察に圧力をかけ捜査をストップさせたとの疑惑がもたれている本件について、文春は総力をあげて取材を行っており、9月に予定される内閣改造・自民党役員人事への影響は避けられないとみられる。しかし、肝心な国民の反応が乏しいのは何故なのか。旧統一教会問題も、1年が経過し、ほとんど話題に上らなくなった。
政府に対して反対の声を挙げにくいロシアなどとは異なり、日本では言論の自由や思想良心の自由が大幅に認められているにもかかわらず、抗議の声1つまともに挙げない。そんな気概もない国民だから、政治に緊張感がなく、政治家のやりたい放題なのだ。
プーチン独裁体制のなか、粛清を覚悟で反旗を翻す人がいるロシア。一方、言論や思想良心・表現の自由が認められながら、政治にモノをいわない、自分の身近な事柄にしか関心がない日本。今の日本の姿を、戦争で亡くなった多くの先人が見たらどう思うだろうか。
【近藤 将勝】
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