【トップインタビュー】企業・生活者の目線に立った県政の実現を 県民のために汗をかく福岡県議会を目指す
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福岡県議会議長 香原 勝司 氏
4月の統一地方選挙で、福岡県議会は12年ぶりに自民党県議団が単独過半数となり、与党会派も大きく入れ替わった。3年半におよんだ新型コロナ感染症の行動制限が解除され、経済活動が活発化した反面、物価高などで企業収益や県民生活も依然厳しいものがある。第73代福岡県議会議長に就任した香原勝司県議会議長に、県議会の取り組みや将来への展望について話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方 克美)知事とは二元代表で対話
──第73代福岡県議会議長にご就任されての率直な感想をお聞かせください。
香原勝司氏(以下、香原) 福岡県議会は87人の議員がおりますが、県議会議長の職務は、大変重い責任がございます。原油や物価高、そしてコロナ禍がありました。県民の生活を守るという観点で皆さんのニーズをしっかり反映させながら、丁寧な議会運営を行っていきたいというのが議長就任にあたっての所信表明でした。
私は最大会派である自民党県議団から議長に送り出していただいておりますが、民主県政県議団から副議長が選出されております。超党派のなかで、責任をもって議会運営を進めております。服部(誠太郎)知事とは二元代表制で、しっかりとした信頼関係の下、もちろん執行部とは緊張関係をもちながら、対話を重ねてまいります。我々(議会)は政策集団でもあります。お互いに政策を提示しながら、福岡県民のために汗をかいていくことが議会として大事なことだと考えております。
──議長職にあまり違和感なく、スタートされたのでしょうか。
香原 議長も選挙を行って選出されますので、確実になれるものではありません。しかし、議長を目指してきたことは事実でありますし、自民党県議団らの諸先輩方に感謝している次第です。今回の改選で、自民党県議団は12年ぶりに単独過半数を得ました。議長選では、87名中、83票をいただきましたので、スタートしやすかったのは事実です。
ワンヘルスの取り組みを世界へ
──議長として優先的に進めたい政策はどのようなものでしょうか。
香原 3年半におよぶコロナ禍を経て、今年はアフターコロナの年だと思っております。コロナ禍で疲弊した経済をどうするのか、とくに生活者がコロナを乗り越えて次のステージで頑張っていけるように議会として取り組むことが一番です。そして、県内の事業者、企業の状況を見ておりますと、企業として、売上を上げて利益をつくることで、高い給与ベースで、従業員の賃金に還元できる経済活動の支援が求められていると思います。賃上げを求める声は多いですし、我々も主張しておりますが、企業が儲かっていなければ、昇給もなかなか進みません。コロナ禍の影響や物価高などがあり、厳しい環境です。国とも連携し、県として企業を支援していくことを柱と考えております。
また、8月4日から10日の日程で、知事をはじめとする訪問団がオーストラリア東部のニューサウスウェールズ(NSW)州を訪問しました。今回の訪問で、福岡県は脱炭素社会へ向けて注目が高まる水素について、製造・輸出に力を入れるNSW州政府と連携を進めることとなりました。新たなエネルギーということで福岡県から発信していきます。国際交流を再開できるようになり、日本国内のみならず、海外へ行き、福岡県のトップセールスを行っていきます。
福岡県議会は、「議員提案政策条例検討会議」を設置していますが、2020年12月の県議会で「福岡県ワンヘルス推進基本条例」が制定されました。これは知事の選挙公約にも掲げられました。ワンヘルスを当局と議会一体となって、日本、そして世界に発信していくことで、これからの福岡県の大きな軸になっていくと思います。県議会には、アジア獣医師会連合(FAVA)の藏内勇夫会長がおられますが、FAVAの初めての日本拠点「FAVAワンヘルス福岡オフィス」が8月1日、アクロス福岡に開設されました。
福岡県としては「UN-HABITAT 国際連合人間居住計画」(ハビタット)福岡本部に次いで2番目の国際機関の誘致となります。世界保健機関(WHO)などの国際機関と連携し、人や動物など生態系全体の健康を目指す「ワンヘルス」の取り組みを福岡から、日本全国、アジア地域に広げてまいります。
9月に、感染症対策の司令塔となる日本版CDC「内閣感染症危機管理統括庁」が発足しますが、九州議長会のなかでも、国立感染症研究所のサテライトを九州に開設することを提言しております。長崎には、長崎大学高度感染症研究センターがありますが、最もレベルの高いBSL-4(高度な安全機能を有する実験施設のレベル)に対応した施設があります。あまり知られていませんが、奄美大島には東京大学の医科学研究所に属する奄美病害動物研究施設もございます。九州のなかで、福岡を拠点とした研究施設の誘致を進めてまいりたいと思います。
雇用確保と企業支援の促進
──福岡県の経済状況についてはどのように認識されていらっしゃいますか。
香原 福岡県全体という点では、福岡市の存在は大きく、私はよいと思います。ただ、それが地方までしっかり浸透しているのかといわれると、そうなっていないと思います。大企業と中小・零細企業との間の格差が広がっているように思います。新型コロナウイルス対策で中小企業向けに実施された実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」が返済期限を迎えましたが、財政支援を国・県で行っていく必要があるように思います。
県内をみておりますと中小企業というより、零細企業が多いのが実情だと思います。そこをしっかり応援していかないと、そこで働く方々の生活が安定しません。私は直方市選出ですが、直方は製造業の街です。中小・零細の製造業の方々の応援をしていかなくてはなりません。
今一番の問題は働き手がいないということです。雇用の確保を、国や県で連携していく必要があります。どの業界も担い手不足が深刻で、その対策として外国人労働者の受け入れ促進が進められています。現場を担う労働者だけでなく、管理職も足りません。長期にわたって勤続している人が減っているということです。
外国人労働者が日本の企業で20年間働くのかというとなかなか難しいと思います。長く働くためには、処遇も改善しなければなりません。自民党も連合を応援しているのは、労働組合を含めて働く人を応援していく姿勢の表れと思います。
雇用を男性のみで担っていけるのかというと、やはり女性の参画が必要で企業の中枢で、働いていただかなければいけないと思います。パートやアルバイトといった非正規雇用ではなく、正規雇用での女性の就業を進めていく必要があります。そのために女性活躍の支援を、議会としても進めているところです。
──当社は企業調査を行ってきましたが、コロナ禍の緊急融資で返済が始まりました。一方で保証協会の代位弁済が増えており、中小企業はかなり苦しい状況にあると思います。
香原 私は「ものづくり」の街で育ちましたので、中小の製造業のおじさんたちがプライドをもって仕事される姿を見てきました。中小企業にこそ大企業にない技術や製品があります。そういったものを残していける、支援していける国にならないと本当にいい「ものづくり」というものはできないのではないかと思います。
直方は半導体や自動車ではなく、鉄鋼業の街です。工場は大きく敷地面積も広くなくてはいけません。そこに昭和の建物が多数残っています。今は大きな建物や機械は必要性がなくなりましたが、それを取り壊す余力がありません。
そうした事業所が1つにまとまっていく必要性がありますが、銀行がはたしてどこまで支援してくれるのかという問題もあります。現実的に設備投資が行える状況にありません。世代交代の時期になっており、経営者も親御さんから受け継いだ会社を守るには新しいことをやらなくては食べていけないことは理解していますが、投資はハイリスクハイリターンですから、失敗のリスクを考えてしまいます。福岡県全体の製造業を守るには、国・県の支援が不可欠だと思います。
長期的な視野での企業誘致
──熊本にTSMCが進出しましたが、そうした海外企業はもっと来たほうが良いとお考えでしょうか。
香原 今、熊本は活況を呈していますが、中枢・中核はなかなか地方に来ません。雇用の受け皿や1つのパイとしてはよいと思います。ただ、熊本県の「ものづくり」の新たな方向性が見出されるのかというとやや疑問が残ります。熊本県の税収が潤い、雇用が生まれ、周辺自治体の人口増加につながりますが、今後、何らかの理由で撤退することも考えられます。今から50年、100年先何が残るのかという点を、考える必要があると思います。そういう意味で宮若市にあるトヨタ自動車九州が、モデルケースになると考えます。自動車もガソリンからEV(電気自動車)へと大きな転換期も迎えています。生産ラインだけでなく、設計含めて地方にどんどん拠点を移していくことができれば地方の生き残り方も変わってくると思います。
日韓関係は未来志向で
──福岡は、アジアに近いという優位性がありますが、日韓交流などはいかがでしょうか。
香原 現在、日韓関係は悪くないと思います。福岡県議会は友好交流協定を締結している慶尚南道議会との交流を行ってまいりました。福岡県は古くよりアジアとの交流で発展してきました。とくに隣国である韓国は、民主主義など同じ価値観を共有するパートナーであり、日米韓の連携・協力は不可欠だと思います。両国間に、歴史的な感情はあるとは思いますが、未来志向として、日韓関係は相互理解や友好親善を深めていくことが重要だと思います。政治が安定しているかどうかが重要で、尹錫悦大統領はしっかりした政権運営を進めていかれると思います。
──政令市である福岡市や北九州市の在り方についてお聞かせください。
香原 服部知事が就任して、福岡市・北九州市と県の関係も良好にあると思います。3者が足並みをそろえていくことで福岡県のさらなる発展につながると思います。福岡市は独自の施策を打ち出していますが、北九州市も元気になってもらうことが重要で北九州空港の滑走路延伸も力を入れています。福岡市は高島(宗一郎)市長のキャラクターでもって発展に向けて突き進むとともに、国との関係を築いていっています。
北九州市は、北九州市響灘地区に集積する太陽光発電や風力発電、北九州市内のバイオマス発電などの複数の再生エネルギー設備を有効活用することで、CO2を発生させずに水素を製造し、供給することへの実証実験を進めています。
県はグリーン水素で成長する地域となることを目指すなか、水素需給のポテンシャルが高い「北九州市響灘臨海部」を中心とした拠点の整備を進めています。北九州市や県、水素の利活用を目指す企業などで構成する「福岡県水素拠点化推進協議会」を発足させ、取り組みをスタートさせました。知事らとオーストラリアのNSW州を訪問したのは水素の安定供給を視野に入れたものです。──福岡市は天神ビッグバン、博多コネクティッドによる再開発が進み、賃料の高騰がみられますが、これについてどう見ますか。
香原 福岡市は空港にも近接し利便性が高いです。福岡市くらいの都市規模になるとそれに見合った賃料設定はやむを得ないと思いますが、政府機能もあり企業の集中度もより高い関西や首都圏に比べて、福岡市はどうかという議論はあるかと思います。
──最後に議長としての抱負をお願いします。
香原 福岡県議会として、県民のために現場の声を踏まえてこれからもやっていきたいと思います。県民の皆さんには、政治をあきらめないでいただきたい。
【文・構成:近藤 将勝】
<プロフィール>
香原 勝司(こうはら・かつじ)
1967年6月生まれ。90年、第一経済大学卒業。2003年直方市議会議員、11年福岡県議会議員初当選(直方市選挙区、自民党県議団、4期)。県土整備委員会委員長、ワンヘルス・地方分権調査特別委員会委員長、議会運営委員長などを経て、23年5月、第73代福岡県議会議長に就任。関連記事
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