なぜ、週刊文春ばかりスクープを連発できるのか(前)
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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏『週刊文春』(以下、文春)一強時代である。新聞、テレビ、週刊誌を含めた雑誌、ネットメディアなどのなかで文春の情報収集力と取材力は群を抜いているといっていい。文春は、多くの修羅場をくぐり抜けてきた記者たちやノンフィクションライターたちを多く抱えているから、当然ではある。だが、彼らも情報がなければ動けはしない。文春が一番優れているのは「情報収集力」だと思う。なぜ、文春にばかり情報が集まるのか。それを考えてみたい。(7月上旬脱稿、文中敬称略)
最近の凄味ある文春報道
下世話な話から始めることをお許しいただきたい。
最近、文春が報じた2つの不倫スクープには、同誌の“凄さ”が表れていて、読んでいて身震いがした。1つは女優・広末涼子のW不倫、もう1つは岸田政権の中核、木原誠二官房副長官の「愛人と認知していない子ども」の話である。まずは広末のほうから見てみよう。
広末不倫報道に見る文春一強の危うさ
広末は1980年、高知県で生まれた。96年に出演したNTTドコモのCM「広末涼子、ポケベル始める」で大ブレイク。ヒロスエブームと呼ばれる社会現象を巻き起こした。映画『鉄道員』や『おくりびと』などの話題作に出演している。
人気絶頂にあった広末が5歳上のモデル・岡沢高宏と結婚したのは2003年12月。当時23歳の“でき婚”で、翌04年4月に長男を出産している。しかし、岡沢との結婚生活はすぐに破綻を迎え、08年春に離婚。その後、キャンドルアーティストのキャンドル・ジュン(現在、49)と10年10月に再婚して、翌3月に次男を出産している。
その広末が、代々木上原のフレンチレストラン『sio』の人気シェフ、鳥羽周作(45)と“道ならぬ恋”に落ちていると文春は報じた。鳥羽も妻子持ちである。
2人が出会ったのは今年3月下旬。広末が鳥羽の店を訪れた時からだというから、「瞬間湯沸かし器」のような恋である。文春は何度か2人の逢瀬を目撃している。そして6月3日午後9時半ごろ、広末が都心の高級ホテルにチェックインし、鳥羽も同じホテルに泊まっていたことを突き止めたのだ。だが、2人は文春の直撃を否定している。
しかし、文春は2人が交わしていた「不倫日記」とでもいうべきものをすでに入手していて、次の号で公表するのである。2人が密に交わしていた交換日記には、まるで彼らの寝屋をうかがい見ているようなきわどい表現もあるが、文春はご丁寧にその日記の一部を写真に撮って掲載している。
ここでひと言いっておきたい。広末と鳥羽のあけすけなやり取りを書いた日記風の「私信」を誌面で報じることには問題があるのではないか。たしかに彼女は有名な女優だから不倫を報じられることは致し方ない。だが、不倫相手との肉筆のやり取りは、第三者には知られたくないプライバシー情報が詰まった「私信」である。同じようなことをやってきた私がいえた義理ではないが、2人からプライバシー侵害といわれても致し方ないのではないか。
だが、今の文春にものをいえるメディアなどない。こんなところに文春一強の危うさを感じるのは私だけだろうか。
木原副長官の愛人疑惑
もう1つの木原官房副長官の愛人と子どもの話を見てみよう。木原誠二(53)という男は、よほど懲りないか、世間の目などまったく気にしない人間なのであろう。元ホステスの愛人(以下A子)とその子どもを可愛がり、子どもの七五三にも付き添っていたことは、1年半前に『週刊新潮』が報じていた。
しかし、この御仁、そんなことは歯牙にもかけないようだ。文春によると、今でも彼女の家に泊まったり、官邸近くまで車で送ってもらったりを繰り返しているようだ。今年3月には、A子の子どもの誕生日に東京ディズニーランドに行き、その後A子たちとホテルで食事し、3人はそのホテルに泊まったというのだ。A子は47歳、シングルマザーで仕事はしていない。さらに木原の本妻とその両親もA子の子どものことは知っているという。一体どういうことなのだろう。
木原の代理人の弁護士は、愛人の自宅やディズニーランドに行くときには、「都度妻の了承を得てのことであって、何ら不適切なことはありません」と答えている。呆れ果てるいい分だが、木原もA子の子どもの父親は自分ではないと言い張っている。
ここでも文春は、A子が友人に話した決定的な「音源証拠」を入手していて、次号でそれをぶつけるのである。「(木原は=筆者注)本妻と交際していたころ、本妻と同様に銀座のホステスだったA子さんとも付き合っていたんです。そして14年、本妻とA子さん2人が相次ぎ妊娠した。A子さんも当然、入籍を望みましたが、木原氏は数カ月妊娠発覚が早かった本妻のほうを選んだんです。A子さんとは結婚せず、B子(編集部注:木原とA子の娘)ちゃんの認知もしませんでした」(事情を知る木原事務所の関係者)。
そのころに、A子に病気が発覚した。録音のなかでA子がこういっている。「(病気になった後)電話したのが間違いだった。B子をどうしようと思うと、やっぱりそうすると父親しかいないなって思ったの」。子どもの父親は木原だといっているのだ。A子の知人が「なぜ木原氏は認知しないのか?」と問うと、「まあ、自分の出世のためなんじゃないですか。(中略)バレるから、早く離婚1回して(B子ちゃんを)籍に入れておいた方がいいよって言ってたんですよ」。さらに、「私もさっき言ったんですよ。『往生際悪いね。もうさあ、認めればいいじゃん』って言った。そこまでは嘘をつき通したけど、(今後も報道が)出るんだったらさ、『認めて(議員を)辞めたら』って」。
文春のこの報道が出た後、A子の代理人弁護士が司法記者クラブに、A子の娘は認知は受けていないが木原との間に生まれたことを認める文書を送った。木原側の完敗であった。だが、文春の木原追及はさらに続いた。文春(7月13日号)で、木原の本妻に「殺人容疑」がかかっているという仰天情報である。
木原の本妻の殺人容疑
事の経緯を簡略に記す。本妻には木原と結婚する前に結婚していた男性がいた。相思相愛に見えたが、06年4月10日、彼女の夫が自宅の1階で不審死しているのだ。当初の警察の見立ては「覚醒剤乱用による自殺」というものであった。だが、男性の父親たちが納得しないため不審死事案として扱うことになったという。
その後、彼女は東大出身の元財務官僚で自民党の1回生議員だった木原と恋に落ちて結婚する。だが、18年春、1人の女性刑事がこの事件に疑念を抱き、動き出す。事件当時、木原の本妻はYという男性と親密だった。そのYが事件当日、彼女の家の方向に向かっていたことが判明した。
覚醒剤取締法違反容疑で収監中だったYを訪ね、女性刑事らが粘り強く聞き取り調査をした結果、Yは、「あの時X子(木原の本妻=筆者注)から『殺しちゃった』と電話があったんだ。家に行ったら、種雄(木原の本妻の元夫=筆者注)が血まみれで倒れていた」と自白したというのだ。
18年10月9日、木原の自宅がある東京・豊島区のマンションに捜査員たちが向かい、木原の妻に任意同行を求めたという。だが、幼子のいることを考慮して、出頭してもらうことになったが、彼女は「事件には関与していません」「わかりません」というばかりだった。
それから1カ月後、突然、女性刑事たちは事件から外されてしまったのである。政治的配慮が働いたのではないか。当時の捜査員は、政権与党の有力議員の妻が「殺人事件の容疑者」として逮捕されれば、「自民党を敵に回すよ。最終的には東京地検の意見を受けて、警察庁が『やめろ』という話」だと話している。愛人のA子が知人に語った音声では、「(X子さんが)連行されたとき、すぐ来たんですよ。私(のところ)に。あの人(木原)。『離婚できるよ』、『離婚届も書いたから』って」。しかし、「やっぱり『離婚したら、奥さんがまた連行される可能性がある』っていう話になり。(私が)『連行させればいいじゃん』って言ったら『子どももいるし、どうするんだ』みたいな話になって」、と語っているのである。
文春は、Yにも会って話を聞いている。彼は、「ただ、結局、僕の話(供述)があったとしても、やっぱり落ちない(自供しない)と。結局そこじゃないですか。守られている砦が強すぎるから」と、X子の夫である木原の権力者としての存在が、事件解明の妨げになっているというのだ。
これが事実だとすれば、将来の総理候補に致命的なスキャンダルということになる。木原側の弁護士は、「事実無根」だとし、報じた場合は名誉棄損で刑事告訴するといっているが、文春は8ページの大特集で、それに堂々と応えているのである。
(つづく)
<プロフィール>
元木 昌彦(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。法人名
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