2024年11月07日( 木 )

スクープ連発の「文春砲」が問う報道の存在価値(中)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

 そうしたこともあるだろうが、その根底にジャーナリストとして、ジャニー喜多川の犯罪行為への怒りがなければ、これほど続くはずはなかったはずだ。文春には、週刊誌がかつてもっていた、この世の中の理不尽なものに対して、それがどんなに強大な権力でも「おかしい」といえる矜持が唯一残っているといっていいだろう。

 それが良く表れたのが木原誠二官房副長官の妻の「元夫殺人疑惑」報道だろう。木原は副ではあるが、岸田文雄首相の側近で「影の総理」といわれるほどの実力者といわれる。本人ではないが、妻の過去を暴き、不可解な点が多々あると連続して報じているのである。

 しかも、彼女の捜査をしていた警視庁の刑事たちに、木原が圧力をかけて捜査をストップさせたのではないかという疑惑さえあると報じたのである。だが、木原の持つ権力に怖気づいたテレビも新聞も沈黙したままである。そのために、この報道の真実を知る人は一握りであろう。

夜の街 男女 イメージ    この報道は良質なミステリーを読むような面白さがあり、文春の凄さがよく表れていると思うので、順を追って紹介しよう。6月22日号で報じたのは、木原に愛人がいて、子どもまでいるが、その子は木原の実子だというものだった。子どもの七五三や誕生日も一緒に過ごし、愛人宅から官邸へ出勤することもよくあるという。

 当然、木原は否定したが、木原の愛人がそれを認めたため、木原も渋々認めざるを得なくなった。しかし、当初から文春の狙いは木原の妻の重大疑惑にあったことが、7/13日号で明らかになる。木原の妻が、殺人事件の容疑者として事情聴取されていたと報じたのである。

 事の経緯はこうだ。妻は木原と結婚する前に結婚していた男性がいた。相思相愛に見えたが、2006年4月10日、夫が自宅の1階で不審死してしまったのだ。警察の見立ては「覚醒剤乱用による自殺」ではないかというものだった。だが、男性の父親たちが納得しないため不審死事案、いわゆるコールドケースとして扱うことになった。

 彼女はその後、銀座のホステスになり、東大出身の元財務官寮で自民党一回生だった木原と恋に落ちて結婚する。だが、2018年春、1人の女性刑事がこの事件に疑念を抱き、動き出す。事件当時、X子(木原の妻)はYという男性と親密だった。そのYが事件当日、彼女の家に向かっていたことがNシステムから判明したというのである。

 当時Yは覚醒剤取締法違反容疑で収監中だった。Yを訪ね、女性刑事らが粘り強く聞き取り調査をした結果、Y は「あの時X子から『殺しちゃった』と電話があったんだ。家に行ったら、(夫の=筆者注)種雄が血まみれで倒れていた」と証言したのだ。

 2018年10月9日、木原の自宅に捜査員たちが踏み込み、木原の妻に任意同行を求めた。だが、幼子のいることを考慮して、出頭してもらうことになったが、彼女は「事件には関与していません」「わかりません」というばかりだった。

 しかし、それから1カ月後、突然、女性刑事たちは事件から外されてしまったのである。政治的配慮が働いたのではないか。当時の捜査員は、政権与党の有力議員の妻が「殺人事件の容疑者」として逮捕されれば、自民党を敵に回す。最終的には東京地検の意見を受けて、警察庁が『やめろ』という話になったと語っている。

 文春によれば、木原の愛人が知人に語った音声が残っていて、そこには「(X子さんが)連行された時、すぐ来たんですよ。私(のところ)に。あの人(木原)。『離婚できるよ』、『離婚届も書いたから』って」とある。

 しかし、「やっぱり『離婚したら、奥さんがまた連行される可能性がある』っていう話になり。(私が)『連行させればいいじゃん』って言ったら、『子供もいるし、どうするんだ』みたいな話になって」、と木原がいったというのである。

 文春はYにも話を聞いている。彼は、「ただ、結局、僕の話(供述)があったとしても、やっぱり落ちない(自供しない)と。結局そこじゃないですか。守られている砦が強すぎるから」と、X子の夫である木原の権力者としての存在が、事件解明の妨げになっているというのだ。木原はこの報道に対して、「事実無根。刑事告訴する」と息巻いているようだが、この原稿を書いている時点で、文春側に告訴状は届いていないようだ。

(文中敬称略)

(つづく)


<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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