2024年12月22日( 日 )

日田彦山線を転用したBRTひこぼしライン(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 日田彦山線の添田~夜明間は、鉄道による復旧を断念して、JR九州が専用軌道のインフラと車両を保有し、グループのJR九州バスが運営するBRT(Bus Rapid Transport)という、バス高速輸送システムに置き換わった。低床式の電気バスも導入されるなど、高齢者が利用しやすくなっただけでなく、環境にも配慮されたバス路線であり、「BRTひこぼしライン」という愛称をもつ。地元などの期待を背負い、2023年8月28日に開業したひこぼしラインであるが、代替バス時代と比較しサービスが向上した部分や、今後の課題についても言及したい。

BRTひこぼしラインが開業する経緯

 2017年の九州北部豪雨で、日田彦山線の添田~夜明間は甚大な被害を受けた。JR九州は、鉄道で復旧する場合には、輸送密度が低く赤字必至であることから、沿線自治体などの公的機関がインフラを所有し、列車運行はJR九州が担う、「公有民営」の上下分離経営を求めた。

 一方の沿線自治体は、インフラを保有し維持管理するには費用を要するため、その負担に難色を示した。それゆえ協議が難航し、復旧に着手されない状態となっていた。そこでJR九州は、2018年に鉄道による復旧をあきらめ、バスによる復旧に方針を転換した。そして2020年7月16日には、彦山~宝珠山(写真1)の約14kmは、線路敷をバス専用道路に転用するBRTの導入で自治体と正式合意した。

写真1 宝珠山駅は、専用道の終点であり、かつ鉄道時代の駅舎を、待合室として活 用している
写真1
宝珠山駅は、専用道の終点であり、
かつ鉄道時代の駅舎を、待合室として活用している

 2023年4月には、開業予定日を8月28日(月)と発表した。これは、この路線の主要な利用者が高校生であることが影響している。8月中に開業すれば、2学期の通学利用に間に合うためである。翌月には、ダイヤや運賃、グループのJR九州バスが運営する旨の発表が行われ、BRTとしてのサービスの全容が示された。

 そんな中、2023年7月の大雨により、BRT専用道の一部が被災するトラブルに見舞われたが、8月28日に予定通りひこぼしラインとして運行を開始した。JR九州の古宮洋二社長は、記者会見で「予定通り開業すれば、高校生の2学期の通学利用に間に合う」旨や、「生活に密着するという目的をはたすためにも、予定を死守した」と述べている。バス専用道化する際、JR九州が約26億円を負担したが、橋梁2カ所の復旧費用は福岡県が負担した。

 ひこぼしラインの開業後は、引き続きJR九州が事業主体として、インフラや車両の保有を行う。運営は、JR九州バスが担当することから、民有民営の上下分離経営が採用された。また、運行の一部については代替バスを運行していた日田バスに再委託している。

 2012年にJR東日本が、東日本大震災で被災した気仙沼線や大船渡線の不通区間をバスで復旧させるため、24年ぶりに直営バス事業に復帰している。JR九州は、運営をJR九州バスに担わせるようにしている。

運行状況

 BRTは、日田彦山線の添田以南だけでなく、直通運転を行っていた久大本線の日田まで乗り入れるため、久大本線の夜明~日田間は鉄道とひこぼしラインが並走する。ひこぼしラインの運転本数であるが、添田~日田間の全線で運行される便は、1日当たり10往復設定される。それ以外に添田~彦山間に、下り3本・上り5本、筑前岩屋~日田間に2往復の区間運行される便がある。

 また光岡(てるおか)~日田間には、林工西口・昭和学園前・日田市役所前を通るルートもある。このルートは、高校生の通学や市役所へ出勤者の利便性を確保するために設定されている。朝の下り2本と午後の上り5本はそのルートを経由する。

 開業時点では、小型の電気バスが4台と、中型ディーゼルバス(写真2)が2台の合計で6台体制となる。各車両の内外装は、七夕を共通テーマとしつつ、沿線の魅力をイメージするため、1台ごとに異なるカラーリングを採用した。

中型バスは、ディーゼル車を使用する
写真2
中型バスは、ディーゼル車を使用する

 またこの6台に加え、福岡県・コマーシャルジャパンパートナーシップテクノロジーズ(CJPT)により実証実験を兼ねて、水素を燃料とした燃料電池型バス1台が導入される予定である。ひこぼしラインは、ラッシュ時は積み残しにも配慮するため、中型のディーゼルバスを使用するが、オフピーク時は環境に配慮した小型の電気バスで運行するなど、環境にも配慮されている。

 添田駅を発着するすべての便が、同駅からの日田彦山線の列車との乗り換えを考慮したダイヤとなる以外に、ホームの向かい側で乗り換えられる構造であることも特徴の1つ(写真3)。ひこぼしラインのバス乗り場が分かりやすいだけでなく移動もしやすいため、利用者目線に立ったサービスが展開されている。

 ただしバスは、日田市内で渋滞に遭遇すれば遅延が生じてしまうが、この場合は遅延の時間にもよるが、原則として接続は実施されない。

写真3 添田駅は、列車の向かい側のホームへ到着と発車をするため、利用者には分 かりやすく、便利である
写真3
添田駅は、列車の向かい側のホームへ
到着と発車をするため、
利用者には分 かりやすく、便利である

(つづく)

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