2024年12月22日( 日 )

IR整備の問題点と今後の展望(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 大阪府と大阪市は、2025年の大阪万博が終了した後の夢洲(ゆめしま、大阪市此花区)に、統合型リゾート施設(以下:IR)誘致を目指している。そして2022年12月21日に公表された「区域整備計画案」では、2029年の秋から冬頃に施設を開業したいとしている。
 IRに関しては横浜市の計画が既に頓挫。東京都は関心を示しているが、現在は様子見の状態である。和歌山県もIRに関心を示していたが、議会で反対されたため、国へIR誘致の申請すら行っておらず計画が止まった状態である。
 現時点で、国にIRの誘致を申請したのは大阪府・大阪市と長崎県だけであり、長崎県は国から認定が得られていない。本稿では、そうした状況にあるIRの問題点と今後の展望について述べる。

その他地域の誘致状況

和歌山マリーナシティ イメージ    政府は2021年10月から2022年4月まで、IRの区域整備計画の申請を受け付けた。現在、IRの整備計画を提出したのは、大阪府・大阪市、長崎県の2地域のみである。

 ところで、和歌山県はカナダのクレアベスト・グループを事業者とし、和歌山市の人口島である和歌山マリーナシティへの誘致を目指していた。施設の名称は「The PACIFIC」とし、米カジノ大手シーザーズ・エンターテインメントが運営するカジノ施設以外に、1万2,000人収容の国際会議場、計2,638室の宿泊施設などを備え、2027年秋頃に開業する計画であった。

 初期投資は4,700億円であり、年間来場者として約1,300万人を見込んでいた。和歌山県に入る入場料や納付金の見込み額は、開業後5年間で入場料が計600億円、納付金が1,100億円と想定していた。和歌山県はそれらの収入を、ギャンブル依存症への対策費に充てるとしていた。

 つまり、年間で1,700億円の収入があったとしても、それをギャンブル依存症の対策に使用しなければならないということは、県民にとれば行政サービスが向上しないとこと意味している。和歌山県にとっても、IRが誘致された和歌山市を訪問する人が幾分増える程度であると言える。

 それに加え和歌山のIRは、距離的に見ても大阪のIRと完全に競合する。関係者の間からは「関西にIRは2つも必要ない」という指摘があり、議会から反対されたこともあり、和歌山県は国へ申請もしておらず、計画が止まっている。

 長崎県は、佐世保市のリゾート施設であるハウステンボスへの誘致を目指している。ハウステンボスには、入場料が無料のフリーゾーンと有料のエリアがあるが、IRに関しては両方を使用する予定である。

 IRの設置と、運営する予定者としてオーストリアの国有企業カジノ・オーストリア・インターナショナルの日本法人(CAIJ)を選定した。初期投資額で3,500億円、年間来場者を840万人と見込んでおり、初期投資費用はCAIJ側が全額用意するという。

 だが、初期費用の3,500億円を自社で調達するのはハードルが高いため、コンソーシアム(共同事業体)を形成して資金を集めようと試みたが、パートナーとなる企業のなかで数百億円を捻出できるような大企業は見当たらなかった。

 九州電力やJR九州、西鉄などが九州を代表する大企業であるが、IRへ出資するだけの利点がないと考えているのだろう。それゆえ初期投資費用である3,500億円を、調達するメドが立っていないという。長崎県のIR誘致に関しては、国へ申請しているが未だ国からは認定されていないため、先行きに関しては不透明であると言える。

IRは、儲かる事業なのか

 誘致活動を進め国に誘致を申請したのが西日本の2地域のみであり、長崎県に関しては初期投資の資金調達さえ目途が立たなかったのだ。それはIRを整備するには、莫大な初期投資が必要であるが、それの調達が非常に大きな課題であることを表している。いずれにせよ、日本にはIRのなかでもカジノを運営するノウハウをもった企業など、ほとんどないために外資に依存することになる。

 資金調達に関してはコンソーシアムを形成して得ようとしても、資金を負担できるだけの経営体力をもった企業がないことも考えられる。またIRが完成した後も、誘致した自治体には、安定した入場料収入や納入金が得られる保証が無い。その反面、治安の悪化、ギャンブル依存症やそれにともなう家庭崩壊、子供への悪影響などに対する費用が必要となり、それでは誘致した自治体にとってうま味のある話とは言えないだろう。

 仮に大阪府・大阪市、長崎県にIRが誘致できたとしても、運営会社が経営破綻する可能性もあり、そうなるとその跡地の利活用が課題となる。それゆえIRの誘致は、負の効果の方が大きく、安易にIRを誘致して、地域活性化を模索する行為は、慎む必要があると言える。

(了)

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