【伊勢彦信に仕掛けられた破産工作(1)】個人・伊勢の反撃開始
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イセ食品のトップ「伊勢彦信」の世評
伊勢彦信(94。以下、伊勢)は鶏卵大手のイセ食品(株)(東京都千代田区)の元会長にして世界的に知られる美術コレクターだ。
イセ食品は2022年3月、債権者からの申し立てにより、会社更生手続きを開始した。そのような事情を背景として、ネットで「伊勢彦信」と検索すると必ずしも良い評価の記事は上がってこない。
目に飛び込んでくるワードは、「親子の確執」「妄執」などだ。いずれの記事も、まるで示し合わせたように、老齢なワンマン経営の顛末を描き、伊勢に対する否定的なステレオタイプを流布している。それらの記事内容がどこまで真実であるか、またその真実が実際にはどのようなものであるかは、内情を知る者からすると大いに争われるところがある。もっとも、会社のトップとは、最終的に表面的な会社のイメージまで含めてその責任を負うものであり、代表取締役会長「伊勢彦信」として責任を免れることはできない。伊勢は多くの優秀な部下に会社を任せて、同社を世界のイセ食品にした。しかし、伊勢に会社を任せられて、誠実に会社の成長に貢献した社長もいれば、そうでなかった社長もいる。それらの功罪はすべてトップに帰されるのが、トップたる者の運命だ。
だが、伊勢はすでにイセ食品のトップではない。よって今や、彼の名を騙ってなされたことと、本当の伊勢とを分けて語ることも可能である。それが稀代の経営者にして、日本を代表する美術コレクター・伊勢の真の評価にもつながるだろう。
では、なぜ今、そのときなのか?
個人・伊勢は今、破産の危機にある。
では、その責任は、すべて個人・伊勢にあるのか?事実はそうではない。
伊勢に対する破産申し立て
伊勢に対して破産を申し立てたのは、伊勢がかつて会長を務めイセ食品のグループ会社であったイセ(株)の管財人・高井章光弁護士と、同じくグループ会社のイセヒヨコ(株)。
申し立てが行われたのは22年8月。この時点での両申立人の主張によれば伊勢の負債総額は約80億円。その後、数度にわたって伊勢に対する債務追加が主張され、最終的には23年11月時点で、約237億円までふくらんだ。
一方、申立人が主張する伊勢の資産は、美術品が約130億、その他資産も合わせると約149億円と見なす。ただし、美術品の所有権については会社と伊勢との間で争いがあり、約130億円は仮にすべての所有権が伊勢にあるとした場合と、申立人は主張する。
よって伊勢には弁済能力がないとして、破産を申し立てているものだ。
しかし、伊勢本人に取材を行うとともに資料を詳細に精査した結果、本件について異議を唱えたい。
今特集ではさまざまな資料と調査に基づいて、伊勢の破産申し立てにかかわるさまざまな動きを検証する。
最後に付言しておく。
伊勢は94歳の高齢だ。しかし、精神の衰えは一切感じさせず、頭脳は明晰、記憶もはっきりとしている。伊勢は本件について、個人の尊厳をもって闘う気力を漲らせている。以下の連載で、伊勢は多くのことを証言するだろう。
(つづく)
【寺村朋輝】
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