2024年11月25日( 月 )

どうする原発~白馬会議2023参加報告~原発反対派の主張編~(後)

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 リーマン・ショックの年、「西のダボス、東の白馬」となるべく遠大な志のもとに始められた「白馬会議」。2023年も11月18、19日の2日間、長野県白馬村にて開催された。23年のテーマは、「どうする原発~コモン・センスで問え!日本のエネルギー選択」。まず1日目に、メインとなる4つのセッション報告と、関連する話題について論者3人によるナイトトーク。2日目には、4人のウェークアップスピーチと、最後に前日のセッション報告者に対する質疑と討論が行われた。本稿では、原発問題をめぐる核心的な主張が論じられたメインセッションの内容を報告する。

第4セッション
「原発はグリーンか?──目指すべき脱炭素化戦略とは」
(松久保肇・原子力資料情報室事務局長)

松久保肇氏
松久保 肇 氏

 前2者は安全性の観点から原発反対を主張したが、松久保氏の原発反対の論拠は異なる。松久保氏は、これから求められる脱炭素化社会実現の選択肢として原発は妥当ではないと主張する。一般的に、原発は二酸化炭素(CO2)を排出しない電源として、脱炭素化社会における有力な供給電源の選択肢の1つと見なされている。しかし、松久保氏によれば、そう単純ではないという。

原発のCO2排出量

 原発やその他の発電方法のCO2排出量は、エネルギー白書2021などの資料によれば、【図3】のようになる。

出典:エネルギー白書2021
出典:エネルギー白書2021

 これを見ると発電時に燃料を燃やす火力発電4つに比べて、原発は太陽光等の再生可能エネルギーとならんでCO2排出量は極めて少ない。しかし、松久保氏によれば、調査機関によって推計値はことなっている。【表2】の電力中央研究所の結果は、【図3】と同じだが、ボストン大学の地球持続可能性研究所の所長であるソバクール氏(Benjamin Sovacool)が08年にまとめた報告によれば、推計値に大きな隔たりがある。

松久保氏まとめ
松久保氏まとめ

 表中のフロントエンドとは、核燃料製造時や原発の運転に係る過程でのCO2排出量であり、バックエンドとは、放射性廃棄物の処理や使用済燃料の再処理、原子力施設の廃止などに係る過程でのCO2排出量である。

 そのなかでも将来的に懸念されているのは、フロントエンドに含まれる核燃料調達におけるCO2排出量の増大だ。原発の稼働が続けられた場合、将来的にウラン資源が枯渇する。すると、採掘ならびに核燃料として製錬するためのエネルギーコストが上がり、CO2排出量が急激に増加するという研究報告がある。

 それによれば、現在の原発の設備容量を維持した場合、70年を超えたあたりからウランが枯渇し、CO2排出量が急激に増加することが予想されている。また、原発の世界のエネルギー消費量に占めるシェア(1.6%)を維持するために、今後、世界のエネルギー消費の増加とともに原発設置をすすめた場合は、ウランが50年を超えたころから枯渇して、CO2排出量が急増すると見られている。

 さらに原発の問題点は、短期的に運用方針を変更することができない点にある。【図4】を見てもわかるように、原発は建設計画から運転開始までの段階だけでも、他の電源に比べて長期間を要する電源である。原発のビジネスモデルは巨額の初期投資を長期運転で回収することを想定しており、建設後の運転に40~80年、さらに廃炉には30年が必要で、事業の全体として最大130年計画で運用を考えなくてはならない。このような原発は環境変化への対応力が乏しいということであり、経済、気候、安全保障などの諸条件がめまぐるしく変化する現代にふさわしい電源だろうかと、松久保氏は疑問を呈する。

出典:内閣官房資料より
出典:内閣官房資料より

IEAが示すCO2ゼロの電源構成

 国際エネルギー機関(IEA)は、CO2排出量の実質ゼロを目指す行程表「Net Zero Roadmap」を23年に更新した。そこでパリ協定の目標である、「世界のエネルギー部門が産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える」を達成するための道筋を示しており、22年のウクライナ戦争に端を発したエネルギー危機や、再生可能エネルギーの技術革新も踏まえての、50年までにCO2排出量を実質ゼロにする道筋としている。

 【図5】を見ると、世界の全発電量に占める再生可能エネルギーの発電量は、太陽光発電と風力発電を筆頭に30年までに3倍になる。低排出電源全体(原発を含む)としての割合は、22年の39%から30年には71%、50年には100%に上昇する。原発(【図5】なかの黄色)やその他電源はあくまでも補完的役割として想定されており、IEAは脱炭素化を実現する道筋として、原発をごく小さい割合にとどめて、再生可能エネルギーを中心にした電力構成の実現は、簡単ではないが可能であると見立てている。

出典:IEA Net Zero Roadmap 2023

 また、その他にも松久保氏は、再生可能エネルギーが確実に発電コストを下げているのに対して、原発の試算コストが徐々に増大している点なども指摘した。

 松久保氏の主張をまとめると、CO2削減の選択肢として原発を採用した場合、将来的なウランの枯渇によって原発のCO2排出量は急激な増加に見舞われる、しかし原発は長期計画での運用が必要なためCO2排出量が増大した原発を維持し続けなくてはならないことになる。つまり、原発は脱炭素化とは真逆の大きなCO2排出リスクを抱えているということである。松久保氏は、省エネによって必要な電力量を減らす努力を並行して行えば、再生可能エネルギーで世界の必要電力を100%まかなうことは十分可能であると主張する。

(了)

【寺村朋輝】

(中)

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