2024年11月30日( 土 )

急速に生活に浸透するAI その活用は人類に幸せをもたらすのか(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

 2022年11月30日に無料公開された「ChatGPT」が瞬く間に世界の人々から注目を集め、すでに企業、市民を問わず多くのユーザーを獲得している。このChatGPTの実現を可能とした技術の発展、隣国韓国での活用の事例などに触れつつ、人々が今後より適切にAIを活用していくためには何が必要かを考える。

ChatGPTでAIが浸透

日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬 氏
日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

    「ChatGPT」は本社を米サンフランシスコ市に置くOpenAI社によって開発された対話型のチャットボットである。これはリリースから6日目にユーザー数100万に達し、世界を驚愕させた。ユーザー数100万に達するのに要した時間はツイッターが2年、フェイスブックが10カ月、インスタグラムは2カ月であり、ChatGPTの普及スピードがいかに驚異的であったかがわかる。

 従来からあるチャットボットは人間のような自然な会話はできない。チャットボット企業のホームページなどに使われていたが、質問に対して定型的な応答をすることしかできなかった。ところがChatGPTは、まるで人間のように自然なかたちでさまざまな質問に答えることができ、その出現に世界が揺れている。

 Googleが数年前に買収したイギリスのディープマインド・テクノロジーズというAI(人工知能)開発会社が開発した「アルファ碁」が世界トップクラスのイ・セドルに囲碁の勝負で勝利するなど、世間でもAIの凄さはうすうすわかってはいたが、自身でAIを直接体験するようなものではなかった。その意味で、個人がAIの力を身近に実感できたのは今回のChatGPTが初めてといえるだろう。

 ChatGPTはAI技術の1つで、人工知能の進化を示す重要な出来事といえる。ChatGPTは利用が急激に拡大しており、発表2カ月後には1億人が使うようになった。ChatGPTは「生成AI」とも呼ばれており、この「生成AI」とは、データを学習し、学習したデータをベースにテキストやイメージなど、新しいコンテンツをつくってくれるAIである。テキストやビデオ、オーディオ、写真などは、人間の創意力に関わる分野で、従来は人間にしか生産できないと思われていた。ところが、AIが人間に代わってコンテンツを生成できるようになり、衝撃が走っている。フォーチュン・グローバル500のうち8割以上の企業はすでにChatGPTを活用しているという。

 マイクロソフトは23年、ワード・エクセル・PPTの作業を代わりにやってくれるAIアシスタントの「コパイロット」を開発した。マイクロソフトの調査によると、使用者の7割は、生産性が向上し、業務のスピードも29%早くなった実感しているという。このようにAIはすでに驚くような発展を遂げている。AI技術は生成AIが出現したことによって新しい転機を迎えようとしている。

AIが急激に普及した背景

 AIがこのように急激に普及し背景には、機械学習やディープラーニングの登場、ビッグデータの普及などがある。従来は人間がルールを定義し、AIは知識を探し問題を解決するというのが主流であった。しかし、現在AIが積極的に活用されている背景には、AIが自ら学習し、ルールを見つけ、推論できるようになったことがある。とくにディープラーニングの手法が登場したことで、AIは飛躍的な進化を遂げるようになった。

 ディープラーニングというのは、人間の脳の働きからヒントを得たもので、AIが人間の知能をもっているように考えるアルゴリズムである。これにより、従来は人間が膨大な手間と時間をかけて機械に覚えさせていた内容を、機械が自分で学習するようになった。ディープラーニングの活用によりAIの発展も急激に進むことになった。

 ウェブとビッグデータの発展により、大量のデータを処理できる環境がそろったことも欠かせない。データ処理スピードの高速化、デジタル機器性能の飛躍的向上、電子部品の価格低下などが相まって、今のAIが実現できるようになったわけだ。AIはビッグデータの処理を前提とするものであるため、急速に増加しているデータがAIの発展に寄与したといえる。もちろん、推論にあまり関係のないゴミのようなデータを取り除く前処理は必要となる。

 このような環境がそろったことにより、現在のAIは実現されている。現在私たちはChatGPTの会話能力に驚いているが、今後AIの研究がもっと進めば、通訳や作曲などさまざまなサービスを、高い精度で行ってくれるようになるだろう。AI技術をいかに確保し、それをいかに効果的に活用できるかが、今後は個人や国家、企業の競争力を左右する重要な要素となるだろう。

(つづく)

(中)

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