人工知能(AI)が世界を支配する時代の到来か?(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸韓国の国家情報院によれば、北朝鮮の金正恩総書記の体重は140㎏を突破したとのこと。かつては極秘情報でしたが、最近ではAIの分析精度が向上したため、スパイや内通者の情報に頼らなくとも、北朝鮮のテレビ放送に映る金正恩総書記の画像から、体重はもちろん健康の具合や精神状態まで正確に推察できるようになったようです。
しかし、北朝鮮国内では食糧不足が深刻化しており、餓死者の数は前年比で3培も増加しているともいわれるほど。かつての中国に倣ってか、北朝鮮では平壌の公務員や学生らが地方の農村に送り込まれ、食糧生産に励んでいるとの報道が盛んです。
表向きの目的は「都市部の若者に地方の生活を体験させ、祖国愛を強めること」。意外にも、そうした農村地帯にはロシア大使館の外交官らも招かれ、一緒に汗を流す場面が北朝鮮メディアでは報じられるようになりました。
AIを使って分析すれば、そうして駆り出された都市部の若者やロシアの外交官らの気持ちも明らかになるでしょう。農村体験を喜んでいるのか、無理やり動員されているだけなのか?
いずれにせよ、AIの進化はあらゆる面で人間の想像力や対応力を超える勢いを見せています。最近、話題を集めている「チャットGPT」ですが、日本では有力な政治家の間でも「国会答弁の作成を効率化するうえで、チャットGPTなどAIは有力な補助ツールになる。公務員の業務負担を軽減させるためにも活用の可能性を追求したい」との見方が出ているほどです。
国会開会中は議員からの質問に対する答弁を準備するため、多くの役所では連日、徹夜を余儀なくされており、そうした過重労働から解放される手段になり得るというわけです。国会答弁に限らず、総務省や農水省でも日常業務の効率化を図るためにチャットGPTを積極的に導入する準備を進めています。
確かに、チャットGPTの威力には凄まじい可能性が感じられます。たとえば、米カリフォルニア大学サンディエゴ校が行った実験には説得力がありました。200人ほどの患者からの質問に、人間の医師とチャットGPTが回答し、その回答を専門家が評価したところ、何と79%は後者の方が質も高く、正確だと判定されたのです。また、回答内容が「共感的かどうか」についても、チャットGPTに軍配が上がりました。
要するに、「AIの発する言葉は無味乾燥で、人間味に欠ける」という常識を覆したわけです。実際、悩みを相談してみても、質問者に寄り添った返事をしてくれます。その説明ぶりも、「時間に追われている医師やカウンセラーより丁寧で分かりやすい」と評判でした。
米テキサス大学の研究者たちは最近、世界をさらに驚かすような研究成果を発表しました。それは人が音楽を聴いたり、映像を観たりしている間に何を考えているかを読み取り、文章化することに成功したというのです。個人のプライバシーを侵害することにもなりかねませんが、意思疎通のできない患者の気持ちを読み取るという意味では画期的な成果とも受け止められています。
事程左様に、技術の進歩には限界がありません。とはいえ、その副作用も無視できません。いうまでもなく、AIの普及と進化は間違いなく雇用に影響をおよぼすことが想像されます。米ゴールドマン・サックスの分析では「現在の仕事の4分の1はAIで代替が可能である。全世界で3億人のフルタイムの仕事は自動化される」とのこと。
生成AI関連の市場規模は2022年の90億ドルから2027年には1,210億ドルに膨らむとの予測もあります。いわゆる「生成AI大淘汰時代」の幕開け宣言に他なりません。こうした事態が進めば、チャットGPTを使いこなせる人とそうでない人との格差は広がるはずです。経済的にも社会的にも無視できません。
さらには、チャットGPTの開発者である「オープンAI」のサム・アルトマンCEOが危惧するように、「AIが人類存亡の危機をもたらしかねない」という問題も指摘されています。「オープンAI」を創業したアルトマン氏ですが、来日時には岸田首相と面会し、日本政府に対して「AIの進化と実装」に関する提言を行いました。
それ以外にも、ソフトバンクの孫正義会長らとビジネス連携について協議を進めています。しかも、その足で韓国やインド、シンガポールも訪問し、ユン大統領やナレンドラ・モディ首相とも会談するという「AI外交」に飛び回っているようです。というのも、AIの進化は止めようがありませんが、その副作用として「何が真実か分からない世界が生まれている」との危惧が広がり始めているためでしょう。
誤った情報や偏った意見が広まり、社会的な分断や対立が引き起こされる可能性も否定できません。場合によっては、SNSがテロや犯罪を誘発する恐れも指摘されるほどですから。とはいえ、ネット上の過去の情報を収集して回答を生成するため、ネット上にフェイクニュースが蔓延した場合には、ウソの情報が正しいものと判断される可能性が出てきます。
たとえば、トランプ前大統領が得意のSNSでフェイクニュースを発信し続け、多くの支持者がそれを拡散すれば、いとも簡単にトランプ正当論をチャットGPTが受け売りすることになるでしょう。そうすれば、ウソが真実に転換してしまいます。
アルトマン氏らはそうした危機的状態を回避するための方策が欠かせないと主張。これにはイーロン・マスク氏も同調しています。というのも、ウクライナ戦争を始め、環境問題やエネルギー・食糧危機への対応も思うに任せない人間たちでは「地球の未来は危うい」と自己判断したAIが「地球のために人類を淘汰する」といった決断を下す可能性も否定できないからです。
アルトマン氏は「影の世界政府」と異名を取るビルダーバーグ会議にも深く関与しています。100歳で亡くなったヘンリー・キッシンジャー元国務長官をはじめ、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長、ウクライナのドミトロ・クレバ外相、ファイザーのアルバート・ブーラ社長、世界経済フォーラムのボルゲ・ブレンデ代表らとも定期的に会合し、デジタル社会の未来図を描いています。世界のエリートを自認する指導者がAIを操り、人類の未来を左右しようとしているのかもしれません。
そうした企みに飲み込まれないためには我々1人ひとりが五感を鋭く磨き、偽情報に騙されないように切磋琢磨するしかありません。いうまでもありませんが、人とAIの共存共栄のためには、何よりも我々人類が主導権を維持できるかどうかにかかっているからです。AI に丸投げしたり、偽情報を鵜呑みにしたりしていては、人類の未来はないことは火を見るよりも明らかでしょう。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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