パソナの錬金術~社内ベンチャーを売却、1,200億円稼ぐ(前)
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株式市場は、一攫千金を狙う錬金術師の世界と言っても良い。社内ベンチャーを上場させて売却し、大金を手にする。“濡れ手で粟”の錬金術の醍醐味だ。人材サービス大手、パソナグループ(G)は子会社で福利厚生代行大手のベネフィット・ワンを第一生命ホールディングスに売却。パソナGは売却で1,200億円を得る。だが、喜々として錬金術に走ったわけではなさそうだ。
「後出しじゃんけん」第一生命HDがベネワンを買収
第一生命ホールディングス(HD、以下第一生命と略)は3月12日、企業向けの福利厚生サービスを手がけるベネフィット・ワン(以下・ベネワンと略)の株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。1株あたり2,173円で2月9日から3月11日までの期間TOBを実施。TOBには発行済み株式総数の(自己株を除く)の48.74%が応募した。買収総額は2,921億円。
今後、ベネワンの親会社パソナグループ(G、以下パソナと略)が保有する51%分を除いた残りの株式を強制的に買い取るスクイーズアウトを行う。その後、パソナの保有分はベネワンが自社株買いのかたちで取得。5月中にベネワンは第一生命の完全子会社となる。
ベネワンのTOBをめぐっては、昨年12月、医療情報サイト運営のエムスリーが先にTOBを実施している最中に第一生命も乗り出す意向を表明。大手金融機関による対抗的TOBは、国内のM&Aの歴史上、異例だとして注目を集め、結果「後出しじゃんけん」の第一生命が勝利した。
目標はガリバーの日本生命超え
第一生命は、生保のなかで、相互会社から唯一、株式会社に転換した。その目的は、M&Aをするため。とくに海外企業を買収する際、株式交換のかたちで行うことができるので、株式会社になっておく必要があった。
第一生命の目標は、ガリバーの日本生命保険を超えること。そのためには業容拡大が絶対だ。昨年11月末に、日本生命がニチイ学館を傘下にもつニチイホールディングスを2,100億円で買収することが明らかになった。日本生命が動いたので、第一生命も早めに動く必要に迫られた。日本生命の動きは、第一生命の株価にも影響する。ベネワンについてはもともと、検討していたため、このタイミングで動いたのでは、という見立てだ。
パソナGの24年5月期純利益はベネワン売却で16倍へ
ベネワンはパソナGの社内ベンチャー第1号「ビジネス・コープ」として1996年に設立し、官公庁や企業の従業員向けに各種の福利厚生サービスを提供している。
親会社だったパソナにとって、ベネワンは営業利益の多くを稼いできた孝行者だった。ベネワンの23年3月期の営業利益は104億円、パソナの23年5月期の営業利益は143億円。ベネワンを手放し目先の利益率は低下するが、その代わりに1,200億円を手にする。
物言う株主が親子上場を標的に
パソナは孝行者のベネワンをどうして売却したのか。理由は親会社より子会社の評価が高いネジレが生じていたため、アクティビスト(物言う株主)の標的になっていたのと、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントから親子上場の解消を求められたからだ。
4月1日終値時点の株式時価総額は、ベネワン3,446億円に対して、パソナは1,166億円。親会社のパソナは子会社のベネワンの3分の1の企業価値しかないことになる。
オアシスは親子上場解消の経営改善案が実行されないことに不満を募らせて、圧力を強めていたが、パソナはやっとベネワンの売却に踏み切った。
物言う株主にとって、「鴨が葱を背負ってきた」も同然で、諸手を挙げて大歓迎だろう。パソナは売却で得た資金を成長投資に振り向ける方針だが、物言う株主を先頭に市場からは大規模還元への期待が高い。一攫千金を手にできる千載一遇の好機だ。株主還元策としては、配当を大幅に増額するほか、自己株式取得を求められることになるだろう。
パソナと物言う株主の攻防は新たなステージに入る。
神戸人脈の「政商」ネットワーク
「政商」の異名がつくパソナグループ代表・南部靖之氏の足跡をたどってみよう。
南部氏は52年、神戸市生まれ。関西大学工学部在学中の76年2月に人材派遣会社テンポラリーセンター(現・パソナグループ)を設立した学生起業家だ。
90年代末のベンチャーブームのころに、南部氏は現在のソフトバンクグループ社長・孫正義氏、エイチ・アイ・エス(HIS)社長(当時)の澤田秀雄氏とともに「ベンチャー三銃士」と呼ばれて脚光を浴びた。ここからベンチャー起業家だった南部氏は、人材派遣業界の主役として表舞台に登場する。
2001年に誕生した小泉政権は、市場での自由な競争を促す構造改革を打ち出した。小泉構造改革を担ったのが神戸出身の経済人たちだ。小泉改革のエンジン役となった経済諮問会議の民間議員はウシオ電機会長の牛尾治朗氏、総合規制改革会議議長はオリックス会長の宮内義彦氏が務めた。改革会議が提案した規制改革案を諮問会議が政策に取り入れた。諮問会議と改革会議は小泉改革の両輪であった。
人材総合プロデュース会社ザ・アール社長・奥谷禮子氏は宮内氏の改革会議の委員。神戸の星陵高校で奥谷氏の1年後輩が南部氏だ。いずれも神戸人脈でつながったネットワークである。
(つづく)
【森村 和男】
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