2024年12月22日( 日 )

懸念される米国政府の債務膨張(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

国債市場の仕組み

アメリカ 財務省 イメージ    各国政府は収入より支出が多い際、その不足分を補うため、国債を発行する。国債は政府が支払いを保証するものなので、最も安全だとされている。国債は債権市場で流通され、市場の状況によって、価格とその利回りが変動する。

 国債市場において国債が買われて値上がりすると、金利は下がり、逆に国債が売られて値下がりすると、金利は上がる。国債は、満期になると元本が返済されるほか、発行時に決められた利率で一定期間ごとに利子が支払われる。また、発行後、債券市場で国債を売買することもできるが、需要と供給に応じて国債の価格は上がったり下がったりと変動して国債の利回りは価格と反対の動きになる。

 数年前、新型コロナウイルス感染拡大が進むなか、米国政府は景気が停滞するのを防ぐため、大量の資金を市中に供給し、流動性を拡大させた。その流動性の影響と、コロナ後の消費回復によって、米国ではインフレが急激に進むこととなった。

 インフレを抑制するため、米FRBは数回に分けて利上げを実施した。それにつられるかたちで、国債の金利も上昇し、米国10年国債利回りは足元で4.8%まで上昇し、5%台が目前に迫っている。なお、30年国債利回りはすでに5%に達している。これは2007年以降では初めてである。

 国債の金利が上がり、もっと有利な利回りの国債が発行されると、既存国債の保有者は保有している国債を売却し、新しい国債に乗りたい気持ちになる。とくに保有期間が長い国債ほど、そのような心理が働き、長期国債に売り圧力がかかりやすくなる。そうなると、売り圧力で国債価格は安くなり、金利が上がる要因となる。現在長期金利が上がっているのは、そのような背景からである。

債務残高の膨張で財務悪化が進む

 米国はドルという基軸通貨を保有する世界最大の経済大国である。米FRBの政策動向は世界経済に甚大な影響を与え、全世界は米国の動きを見守っている。そのような状況下で、米国の債務規模が昨年9月に初めて33兆ドルを上回り、債務膨張による米国経済の危機が懸念されている。

 問題は債務の増加がずっと続いていることと、利上げによって、利払い費が急激に増加していることだ。米国の負債は昨年6月に1カ月で6,000億ドル増加したかと思うと、その後、少し減少はしたものの、毎月4,000億ドルずつ増え続けている。負債の返済額も、コロナ前までは1日10億ドルであったが、23年に入って毎日20億ドルに増加している。米国議会予算局(CBO)の推計では、米国のGDPに対する正味の利払い費の比率は現在の2.5%から、33年には3.6%に、53年には6.7%に高まる見通しだ。高齢化、気候変動、ウクライナや中東情勢などの地政学リスクを踏まえれば、将来的にも支出は増大することが予想されるからだ。米FRBが利上げでインフレの抑制を図る反面、米政府はIRA法の施行など、インフレ抑制に逆行する政策を取っているとの指摘もある。

(つづく)

(後)

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