2024年12月22日( 日 )

懸念される米国政府の債務膨張(後)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

債務が巨額になった原因とその影響

ドル イメージ    普通の国であれば、債務が多くなると、国の信用が落ち、その国の貨幣も価値が下がる。ところが、米国は巨額の債務があって「危機」と言われながらも、実際には危機に陥ったことがない。ドルは基軸通貨であり、全世界的にドルの需要があることがその要因だと思われる。

 米国は基軸通貨であるドルの流動性を全世界に供給しなければならない。その結果として米国はどうしても貿易赤字を計上せざるを得ない宿命にある。しかし、これまでは債務が膨らんでも無事だったが、将来的にも無事だという保証はどこにもない。米国においても進行する高齢化、医療費増加、インフラの改修、米国内に製造業を取り戻そうとする動きなどがあることを考えると、米国の債務はこれからも増加することになるだろう。

 債務が巨額となった場合、金利負担が相当なものとなり、利払いのための新しい債権の発行など、悪循環に陥る恐れは十分ある。このまま債務残高増加と金利上昇が進んだ場合、利払い費の増加を通じて債務残高が膨らみ、それがまた利払い費を増加させるという悪循環に陥りかねない。

 しかし、市場では、こうした利上げも限界に達し、今年の下半期からは利下げになるのではないかと予測している。これ以上、高金利政策を維持できない理由として、膨大な債務の存在が挙げられる。

 コロナ期間中にまともな経済活動ができないなか、低金利を良いことにローンを組んで住宅を購入したり、株式投資をしたりする人が多かった。その結果、GDP対比の債務比率が急激に増えている。そのような状況下で利上げを続けると、利子の負担に耐え切れず、破産する人や企業が続出してしまう。もっと利上げをしたくても、そうした要因があるので、利上げを中止し、利下げしようとするわけである。なぜならば、債務の負担を少しでも軽くし、景気を活性化させたいからだ。

米国国債の需要不足の懸念

 これまで国債は最も安全な投資対象だと思われていた。そのなかでも「世界最強の国」である米国債は需要が多く、中国や日本などは、米国と貿易をして稼いだ外貨を最も安全な米国債に投資していた。米国が国債を発行しても、ちゃんと買ってくれる顧客がいたため、これまでは国債の需要を心配する必要はなかった。米国債は米国の財政状況とは関係なしに、買い手が常に存在していたのである。

 しかし、少しずつ状況は変わり、米国債の需要不足を懸念する声が聞こえ始めている。中国は米中覇権戦争のなか、米国債の保有額を減らしているし、日本も円安に歯止めをかけるため米国債を売った資金でドルを売り、円を買うことで為替介入を実施している。

 アメリカ政府は年間23兆ドル前後の国債を発行しており、売れ残りがあるわけではないものの、徐々に国債の買い手が少なくなっているのは事実である。長期国債よりも超短期国債が国債発行の6割くらいを占めている事実も、国債市場の変化と不安定さを物語っている。

 米国の財務省が実施した最近の30年もの国債の入札で応札率は2.24倍と約2年ぶりに最低となった。予想より需要は少なく、発行金利も4.769%で、前回と比べて0.051%高くなった。その分、財務省の利子負担も重くなる。国債の需要が不足すると、金利を高くすることになるので、それも利上げの要因の一つとなる。今後も米国国債の動向を注視していくことが重要である。

(了)

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