司法書士を起訴、成年後見制度を悪用し760万円横領
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成年後見人として管理していた貯金口座から約760万円を横領したとして、福岡地検は10月26日、福岡県司法書士会所属の司法書士井本秀教容疑者(43)=福岡市早良区=を業務上横領の罪などで福岡地裁に在宅起訴した。
起訴状によると、井本容疑者は、福岡市内の90代の女性の成年後見人をつとめていた2012年11月から13年8月にかけて29回にわたって、女性の貯金口座から合計約760万円を払い戻して横領した。
また、女性が相続した土地・建物の所有権移転登記を怠ったことを隠す目的で、12年8月頃、移転登記がされたかのように土地・建物の全部事項証明書を偽造し、女性の親族に渡したとして、有印公文書偽造および行使の罪でも起訴された。成年後見人制度(法定後見人)は、認知症などによって判断能力を失った人の契約や財産管理などを支援し、生活の質を維持するもので、後見開始の決定や成年後見人の選任は、家庭裁判所が行う。全国の利用者数は約17万人、福岡家裁では約7,000人にのぼる(2013年)。
地検は、井本容疑者の認否を明らかにしていないが、横領した約760万円は遊興費にあてられたとみている。
弁護士による依頼者からの預り金の横領など、士業による依頼者等の弱い立場の者からの横領が後を絶たない。士業の多くは個人事業主のため、病気などをきっかけに、生活費の困窮や資金繰りの悪化をカバーするために、依頼者らのお金に手を出すケースもあるが、多くは専門職のモラル欠如を示す。今回は、本人の判断能力がないことをいいことに、成年後見人という立場を悪用したもので、悪質性は高い。
成年後見人には、従来は親族など一般市民が就任するケースが多かったが、親族が後見人の場合、親の財産を自分のために使うなどの不正があり、専門職後見人の積極的活用が進められてきた。司法書士、弁護士、社会福祉士、社会保険労務士などの専門職の選は全体の約6割を占めるに至っている。
井本容疑者は、専門職にかけられた信頼と期待を裏切った。後見人の不正を防止するために、裁判所による監督のほか、複数後見人による権限分掌、後見監督人の選任などが行われているが、第三者によるチェックは、人と労力とお金がかかり、被後見人(本人)の経済的な負担を増すことにつながり、最善策とは言い難い。
全国の65歳以上の認知症高齢者は推計で300万人を突破したが、成年後見制度の利用者は5%にとどまっている。団塊世代の高齢化、認知症の増加、単身世帯高齢者の増加により、介護保険を契約するために成年後見制度の利用の爆発的な増加も予想され、今後、裁判所による監督は限界を迎えるおそれもある。専門職のモラル対策は急務だ。【山本 弘之】
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