2024年11月23日( 土 )

蜜月ぶり目立つ習近平&プーチン、2人の共通点(後)

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国際政治経済学者・参議院議員 浜田 和幸 氏

sinkansen 2015年9月、日本政府には激震が走った。インドネシアにおける高速鉄道建設計画に関し、中国が日本を出し抜き、契約を勝ち取ったからである。日本は長年に渡りインドネシアにODAを通じ、経済技術援助を積み重ねてきた。しかも、鉄道技術の専門家を多数派遣し、3億円近くの調査費をかけ、インドネシアにおける事前調査(FS)を実施していたにもかかわらず、後からやってきた中国の新幹線売り込みに逆転されてしまった。日本が官民一体となり、新幹線の売り込みに尽力していたはずだったのが、この結果である。

 経済的に厳しい状況に置かれているインドネシアにとっては、日本の安全、安心な技術も魅力ではあったろうが、それにも増して中国の習近平直々の売り込みが効果を発揮した側面を無視できない。なぜなら、中国はインドネシア政府に対し財政負担や債務保証を要求しないとの破格の条件を提示したからだ。

 「中国の夢」を「アジアの夢」と一体化させる巧みな働きかけでインドネシア政府の心を掴んだ習近平の大胆不敵外交の勝利といえよう。技術の優秀さに胡坐をかいていたわけではないが、日本の技術偏重戦略が海外で必ずしも評価されないことが明らかになった事例だろう。日本の情報収集の遅れと相手国への接近手法の硬直化が大きな敗因だ。

 一事が万事。中国式の接待に裏付けられた経済援助とインフラ輸出をミックスした戦略は、今後のアジア地域の発展にとって、無視できない影響力を行使する可能性が高い。新幹線の輸出計画に関して言えば、中国はすでにタイへの売り込みにも成功。それ以外にも中国の動きは素早い。例えば、核問題で欧米諸国と対立したイランについても、6カ国協議の合意が得られ、イランへの経済制裁が解除されることが決まると、最初にイランとのエネルギー開発と輸入契約に着手したのは中国であった。
 習近平国家主席はイランのロウハニ大統領との素早い会談をまとめ上げ、イランにとって最大の原油輸出国となったのである。もちろん、中国はイランに対し、鉄道、道路に止まらず鉄鋼、自動車、電気、ハイテクなどの産業支援策を打ち出したことは言うまでもない。こうしたスピーディな対応は中国の持ち味であろう。

 同様にロシアも、北方領土を含め、極東方面における大規模なインフラ整備事業について、日本にも参加を呼び掛けてはいるものの、中国や韓国、北朝鮮といった国々からの投資や合弁企業進出がはるかに速いスピードと大きな規模で進展中である。
 さらには、原油価格が世界的に低下しているなかにおいて、ロシアの経済発展の最大の原動力であるエネルギー資源の売り込みが厳しい状況に陥っている。加えて、追い打ちをかけるように、欧米諸国はウクライナ問題を理由に、ロシアへの経済制裁を継続中である。そうしたなか、中国がロシアに対し、天然資源の輸入拡大という形で、ロシアの生命線を維持している側面を無視するわけにはいくまい。

 要は、プーチン大統領は、崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との野望を秘めているのである。「中国の夢」と称して、4千年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習近平の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。
 実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。こうした動きに日本はまったくと言っていいほど食い込むことができない状態が続いている。

 一方、アメリカであるが、現在のオバマ政権を含め、世界各地で直面しているテロとの戦いや、民族・宗教的対立がもたらす1億人近い難民問題などについて、世界を納得させるビジョンや指導できる説得力や統率力を発揮できないままだ。
 他方、プーチン大統領は国内に多数のイスラム教徒を抱えており、チェチェンの独立への動きなど多様な内政問題を抱えている。そのため、弱みを見せるわけにはいかない。ロシアの国家的統一を維持するためには、イスラム教徒に対しても、ロシア語とロシアの伝統文化を尊重するように強く求めている。そのことで、ロシアの民族主義や、愛国主義を高めようとしているわけだ。

 現在のところ、こうしたプーチンの強い姿勢は国民の間で高い評価を得ていると思われる。また、各地で激化しているイスラム過激派集団との戦いにおいても、ロシアはアメリカ以上にISの掃討作戦には人とカネを投入しているようだ。こうした民族独立の動きをけん制する強硬な姿勢も中国の習近平との共通点と言えるだろう。
 日本とすれば、世界の力関係の変化を冷静に把握し、アメリカの力を活かしながら、中国やロシアとの関係進化を目指す必要がある。外交も国際関係もトップの個人的関心が大きく左右する。中ロ関係を理解するには、こうした面での情報収集と分析も重要だ。とはいえ、これは決して中ロ関係に限って当てはまることではない。政治やビジネスの現場においても同様で、交渉を有利に展開し成功を勝ち取る上では欠かせない視点であろう。日本が生き残るためには、一人ひとりが情報感度を高め、相手の強みと弱みを把握した上で交渉テーブルにつく必要がある。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。

 

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